「グランドセイコー SLGH005白樺って何がすごいの?」
「グランドセイコー SLGH005白樺の魅力や特長が知りたい」
「国産時計の最高峰」「最高の普通」などと名高いグランドセイコーは、2020年に創業60周年を迎えました。
クォーツ式腕時計の普及や不況のあおりを受け、一時は眠れる獅子だったこともあります。
しかしながら2017年に母体のセイコーから独立して以降、ブランド価値を飛躍的に高め、わが国のみならず海外市場でも大きな人気を獲得するに至っています。
そんなグランドセイコー、2021年も快進撃が止まりません。
隆盛を象徴するかのように発表されたのが、こちらのヘリテージコレクション SLGH005「白樺(しらかば)」。
そんなグランドセイコー SLGH005白樺の魅力や特長が知りたいという人は多いのではないでしょうか。
SLGH005の「シリーズ9」と銘打たれた外装デザインの新機軸,そして「白樺(しらかば)」をモチーフとした文字盤テクスチャは発表当時から業界内で大きな話題を呼び、「これは欲しい」という声が大変多くなっています。
この記事ではグランドセイコー SLGH005白樺の魅力や特長を、GINZA RASINスタッフ監修のもとレビューを交えながら紹介します。
定価と実勢価格の紹介もしますので、グランドセイコーの購入をお考えの方はぜひ参考にしてください。
目次
グランドセイコー ヘリテージコレクション SLGH005「白樺」とは?
冒頭でもご紹介したように、SLGH005は2021年にグランドセイコーがローンチした新作モデルです。
詳細をご紹介致します。
ヘリテージコレクション SLGH005
ケースサイズ:直径40mm×厚さ11.7mm
素材:ステンレススティール
駆動方式:自動巻き
ムーブメント:Cal.9SA5
パワーリザーブ:約80時間
防水性:10気圧
定価:1,045,000円(税込)
②概要
グランドセイコーが2021年明けてすぐ、新作として発表したヘリテージコレクション SLGH005。
ちなみに、従来グランドセイコー始め人気高級ブランドはバーゼルワールドやSIHH(現Watches & Wonders Geneve)といった大型新作見本市でその年の新作発表を行ってきました。しかしながらインターネットの普及やブランド独自発表の開催により、必ずしも高額な出展料を支払ってまで新作見本市に参加する必要性がなくなってきたこと。こういった流れの中でバーゼルワールドが休眠状態に陥ったこと。加えて2020年から続く新型コロナウイルスの影響でオンライン発表にシフトしていることから、グランドセイコーもまた独自に新作発表を行うようになりました。
そして2021年、その発表第一弾となったのがSLGH005、というわけです。
同時にSLGH005は、人々に鮮烈な印象を植え付けました。
「白樺」と称された文字盤。
「シリーズ9(Series 9)」なる新たなるデザイン文法。
2020年に発表されたグランドセイコー渾身の新世代ムーブメントCal.9SA5。
SLGH005はこういった特別仕様がありながらも限定ではなく通常モデルとしてグランドセイコーのラインナップに加わっています。とりわけ新世代ムーブメントCal.9SA5がレギュラー生産となったことを寿ぐ声は少なくないでしょう。
このSLGH005のディテールについて、次項よりご紹介致します。
グランドセイコー ヘリテージコレクション SLGH005「白樺」を実機レビュー!
前述の通り、2021年グランドセイコー新作として発表されたヘリテージコレクション SLGH005。
この時計を説明しようと思った時、「文字盤」「新デザイン文法」「新世代ムーブメント」の三つのトピックに大まかに分けることができるでしょう。
それぞれを解説致します。
①文字盤「白樺(しらかば)」
グランドセイコーは誕生当初、「スイス クロノメーターに匹敵する高精度時計」というコンセプトも持ち合わせていました。
クロノメーターとは簡単に言うと時計に関する品質規格で、主に精度(時間の正確さ)を対象に行われます。同名の公認機関で精度基準を突破した個体はクロノメーターの称号を用いることが許可されますが、これはきわめて高精度であることを示唆します。
グランドセイコーはその処女機から既にクロノメーター級の高精度を備え、さらに後にこれを凌駕する「GS規格」を制定。以降、現在に至るまで精度をとことん追い込んだ腕時計を世に輩出してきました。
そのためわが国のグランドセイコーのイメージは、「高精度」「高性能ムーブメント」が根強いでしょう。もちろんこのイメージは誇りでもありますが、一方近年海外市場でとみに話題になるのが、「グランドセイコーの文字盤」です。
本項でご紹介する「白樺」の前に、こちらの雪白をご覧下さい。
上記の画像は、グランドセイコーの基幹モデルの一つSBGA211です。文字盤の質感から、「雪白(スノーフレーク)」の愛称でも親しまれています。
この質感は、グランドセイコーの「わびさび」、そして高度な時計製造技術を最もよく味わえる魅力の一つです。
「高級時計」と呼ばれる個体は文字盤になんらかの装飾を施していることが多いです。ギョーシェと呼ばれるものですね。ギョーシェは同一パターンが並んだ幾何学的模様となりますが、グランドセイコーは自社で文字盤にコンセプトを設け、さながら絵画のようにランダムで自由な装飾を施します。
例えばこの雪白は自社工房の一つ「信州 時の匠工房」から臨める北アルプスの山肌を表現するために、あえて凹凸を作り、そして降り積もった雪を表現するため塗装ではなく銀めっきによって純白へと仕上げられました。
文字盤の美しさ・ユニークさにかけて、グランドセイコーは他の追随を許さないと言っていいでしょう。そして雪白の価格帯(定価682,000円)でこれを実現していることにもまた、驚きを禁じえません。
話はSLGH005に戻りますが、同機もまたコンセプトがあり、それこそが「白樺(しらかば)」です。雪白とはまた違ったダイナミックで鮮烈な文字盤装飾が見て取れますね。
これは、岩手県雫石市に位置するグランドセイコースタジオ近隣の、白樺林を落とし込んだとのこと。確かにこの近辺には見事な白樺林が群生しています。
白樺の樹皮のような型打ち模様と、白樺林にしんしんと降る雪を思わせる銀白色が、非常に美しいですよね。
※ちなみに、グランドセイコーは高級機の二大工房として雫石高級時計工房(グランドセイコースタジオ。2020年7月竣工)と前述した「信州 時の匠工房」を擁しています。雫石では高級機械式時計を、信州 時の匠工房ではスプリングドライブが手掛けられています。
白樺文字盤も雪白と同様の工程が踏まれています。
すなわち金型からプレスで文字盤の原型をまず造りさらにプレスで模様を型打ち。切削した後丁寧にメッキ・塗装を施す、と。
このプロセスはそう珍しいものではありません。しかしながら同社は高度なプレス技術によって真鍮製文字盤にモチーフを深く精密に施すことが可能です。
また、雪白同様に銀白色が実現していますが、これまたただ塗装を行ってしまうと凹凸が埋められてしまうため、銀めっきを用いました。もっとも銀めっきもこういった凹凸のある被めっき体に均一に施すことはきわめて難しく、熟達した職人技に拠るところが非常に大きいとか。
さらに仕上げで行う分厚いクリアラッカーによって、経年劣化に著しく強い、「普遍にして不変の美しさ」を獲得しています。
ちなみに、こういったランダムな文字盤装飾は視認性を妨げると言われています。
しかしながら多面カットと鏡面仕上げによって燦然とした輝きを放つインデックス・時分針によって、視認性はもちろん、高級機として十二分な風格を備えます。
②新デザイン文法「シリーズ9(Series 9)」
昔からのグランドセイコーファンは、同社の「外装」に惚れ込んでいるという方が少なくありません。
グランドセイコーはとりわけ仕上げには一家言持っており、決して派手さはないものの、高級時計として完成された外装を自社の強みとしてきました。
これは、グランドセイコーのデザイン文法に「セイコースタイル」が根差しているためでしょう。
セイコースタイルとは1967年に同社が製造した44GSに端を発する、セイコー独自の「高級時計のためのデザイン文法」です。
※44GS・・・手巻きムーブメントCal.4420系を搭載したグランドセイコーモデル。高精度であることがグランドセイコーの当時の命題でしたが、同時に国産高級時計として世界に誇れるデザインをも訴求しており、44GSが後のグランドセイコーの高級時計としてのデザインを確立したと言われています。
このセイコースタイルには9つのデザイン要素がありますが、その目指すところは「燦然と輝く時計」。
平面を多く取って主体とし、この平面は歪みのない鏡面仕上げが施されていること。ベゼルやケースサイドを下に向けて絞る造形とすることで、逆斜面状のフォルムを有すること。多面カットを施し、かつ外装同様に歪みのない鏡面仕上げを施した時分針・インデックスを有すること・・・こういったデザイン要素が盛り込まれることで、光と陰を巧みに活かしたグラデーション,あるいはメリハリのついた高級時計を完成させるに至りました。なお、この「光と陰」を美に取り入れる考えは、わが国の様式美でもあります。
この「歪みのない鏡面仕上げ」もミソ。
工業製品として鏡面仕上げ(ポリッシュ)を施す時、実は何らかの歪みが生じてしまうものです。そこでグランドセイコーではザラツ研磨を用います。
ザラツ研磨とは、研磨機の回転円盤正面で研磨を行う特殊な機器を用いる手法で、使いこなすには熟練の技術が要求されます。量産機となると、なおさら難易度は上がっていくことでしょう。一方でゆがみの無い完璧な鏡面と完璧な角を生み出すことができ、グランドセイコーが長年外装技術で得てきた高い評価を下支えする技術でもあります。このザラツ研磨によってセイコースタイルは連綿と受け継がれていくこととなりました。
そして2021年新作SLGH005では、このセイコースタイルを受け継ぎつつ、正統進化させた新デザイン文法「シリーズ9」を打ち出しました。セイコースタイルが基調としてきた「光と陰の間の美」をいっそう突き詰め、さらに質感や輝きを増したデザインを確立しています。
具体的には、より立体感を強調するために面を増やす(上記画像から、ケースサイドに複雑な面が施されていることが見受けられますね),従来よりもさらに力強く大きい時分針・インデックスを採用し、かつインデックスには溝を入れることで光と陰のメリハリを強調する、などです。
確かに従来のグランドセイコーと比べるとかなり外装フォルムが変わっており、派手さはないにもかかわらず「新シリーズ」であることがはっきりと認識できます。
※左が白樺 SLGH005 / 右が雪白 SBGA211。どちらも美しい外装だが、そのフォルムは大きく異なる。
もちろんザラツ研磨を施すことで、変わらず歪みのない平滑で美しい鏡面をも実現しています。
なお、存在感があるとは言え、SLGH005はグランドセイコーでは珍しく厚さ12mm未満となります。
これは、後述する新世代ムーブメントによって薄型設計が実現していたため。
薄型ケースはえてして装着感が良いものですが、さらにムーブメントをケースバック寄りに設置することで重心を下げ(リューズが裏蓋側に近い)ることで装着時のぐらつきが解消されます。加えて幅広のブレスレットによって腕への接着面が広く取られることでも、装着感への配慮がなされることとなりました。
ちなみにバックルも新しくなり、薄型化が図られています。
SLGH005は文字盤の美しさにまず目を奪われますが、細部にこそグランドセイコーの実力やものづくりの精神が宿っているように見受けられます。
③新世代ムーブメントCal.9SA5
SLGH005を語るうえで絶対に欠かせないのが、搭載される自動巻きムーブメント9SA5です。
9SA5はグランドセイコーにとって、悲願の最新世代ムーブメントです。2020年、60周年記念モデルのうちの一つ・SLGH003に初めて搭載されました。SLGH003は1,000本の限定生産でしたが、SLGH005ではレギュラー化。つまり、9SA5の本格的な量産体制が整ったことを示唆しています。
この9SA5とは、いったいどういった点が「新世代」なのでしょうか。
グランドセイコーの「9S」と冠されたムーブメントは、手巻きまたは自動巻き式です。
冒頭でもご紹介したように、グランドセイコーの歴史には一時的な休眠期間があります。それは、クォーツ式時計が1969年にセイコーから市販化されて以降のこと。安価で扱いやすいクォーツ式時計が市場でのシェアを伸ばしていくにつれて、機械式を中心とした高級時計ブランドの中には、倒産や休眠を余儀なくされるところも少なくありませんでした。
1980年代に入ると再び機械式時計の市場評価が高まり、復権を果たしたのは現在の市況が示す通りです。グランドセイコーでも1998年に入ると、再び機械式時計の生産を再開することとなりました。
この1998年に同社からローンチされたムーブメントが9S51(ノンデイト)および9S55(デイト付き)です。
9S5系は「高性能機械式ムーブメント」の謳い文句とともに登場し、事実、28,800振動/時というハイビートでありながらも約50時間の当時としてはロングパワーリザーブを獲得していました。
2009年には36,000振動/時の超ハイビートムーブメント9S85を、2010年には28,800振動/時でありながら約72時間のパワーリザーブへとアップデートした9S65を開発し、以降のグランドセイコーの「高精度」「高性能」という印象をいっきに強めていくこととなりました。
ちなみにこの「ハイビート」と言うのは、「テンプ」と呼ばれるパーツの振動数です。この振動数が高ければ高い(つまりハイビート)一方で油切れを起こしやすくパーツが摩耗しやすく、またエネルギー消費が大きいことからパワーリザーブは短くなりがちです。
高精度を旨としてきたグランドセイコーにとってハイビートであることと、さらに高性能であることは大きな使命であったのかもしれません。
ついに2020年、この二つを両立―36,000振動/時かつ約80時間のロングパワーリザーブ―した9SA5を発売するに至ったのです。
出典:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/special/whitebirch/slgh005/
9SA5の開発にあたって、特筆すべきは「デュアルインパルス脱進機」「グランドセイコーフリースプラング」「ツインバレル」です。
デュアルインパルス脱進機では独自のエネルギー伝達構造を採用し、高い効率を実現しています。
脱進機とは前述したテンプの振動数を一連の歯車(輪列)に伝えたりゼンマイのエネルギーによってテンプを往復させたりするパーツです。この脱進機がハイビート設計であればあるほどエネルギー消費量が高まり、結果としてパワーリザーブの縮小に繋がります。また、絶えず調速機(テンプを含む時計の心臓部)を動かしているため、摩耗が激しくなります。
そこでグランドセイコーではガンギ車からテンプへの動力伝達に「直接衝撃」「間接衝撃」を組み合わせたとのこと。これによって歯車が摩擦を受ける箇所が一方向どちらかとなり、摩擦によるエネルギー消費が低減。スムーズな伝達効率を獲得(また、パーツ摩耗の問題も同時に解消していますね)しました。
ちなみにテンプにも工夫が凝らされています。グランドセイコー独自の巻き上げひげが採用され、安定した精度を維持できる機構となります。この巻き上げひげを搭載したのがグランドセイコーフリースプラングです。
フリースプラングというのは精度調整のための機構で、高級時計によく用いられるスタイルです。従来の緩急針はヒゲゼンマイの長さを制御することで精度調整を行いましたが、フリースプラングでは取り付けたネジの調整によってテンワ(テンプを含むパーツ)の慣性を制御することで精度を調整します。
フリースプラングを搭載するためにはムーブメント自体に優れた工作精度が求められたり、調整の難易度が高かったりします。一方で精密な調整が可能であること。ヒゲゼンマイに直接干渉しないため耐久性が向上し、ハイビートならではの安定した高精度を長期に渡って維持することに繋がります。
グランドセイコーは独自の巻き上げひげと、さらに独自の等時性の調整を可能にしたフリースプラングによって、これを成し遂げました。
こういった最新鋭機構は、MEMS技術によるところが大きいでしょう。
MEMSとはMicro Electro Mechanical Systemsの略称で、半導体製造技術で用いられる手法です。MEMSによって緻密なパーツ設計・製造ができることはもちろん、パーツ一つひとつの工作精度が恐ろしく高いレベルとなり、結果としてグランドセイコーが志す高精度にして高効率な至極のムーブメントを完成させることとなりました。
さらにツインバレル(ゼンマイを収める香箱を二つ持つ仕様。近年のロングパワーリザーブ化の手法の一つ)を搭載することで持続時間を延長しましたが、一方で既存のグランドセイコーの自動巻きモデルよりも薄型設計。前述の通りケース厚は11.7mmです。これは輪列を独自の水平構造によって実現したとのこと。
パーツやブリッジもしっかりと仕上げが施されることで、シースルーバックから鑑賞するのも楽しめる、まさに死角のない傑作機となっております。
驚くべきは、これだけ高性能かつ美しいムーブメントが量産されている、ということ。
昨年のような数量限定ならまだしも、レギュラーモデルでこれを実現することに、グランドセイコーの奥深さが見て取れるのではないでしょうか。
グランドセイコー ヘリテージコレクション SLGH005「白樺」の定価と実勢相場
グランドセイコー ヘリテージコレクション SLGH005の定価は税込1,045,000円です。
ちなみに昨年9SA5を搭載して1,000本限定で販売されたSLGH003は初出価格110万円でした。
グランドセイコーのメカニカルモデルの価格帯は50万円前後~となっているため、ハイエンドの位置づけとなります。もっとも凝った文字盤や新デザイン文法が用いられた外装,そして高精度と高性能を実現した傑作ムーブメントCal.9SA5を搭載している。これらを鑑みれば、決して高すぎるということはないでしょう。
なお、2021年新作ということもあり、まだ出回りは潤沢・・・というわけではありません。また話題性の高さも相まって、中古であっても相場は90万円台後半~となっております。
しかしながら繰り返しになりますが、高いといった印象はなく(発表当時から思っていましたが、実機を見ていっそう強く感じました)、お値段以上。
グランドセイコーの60年の歴史と進化が如実に表れた、希代の2021年新作モデルです。
これは、欲しい!
まとめ
グランドセイコーが2021年に発表した、ヘリテージコレクション SLGH003についてご紹介致しました。
美しき白樺文字盤,新たなるデザイン文法「シリーズ9」,そして新世代ムーブメント9SA5・・・本稿でも何度か言及しているように、近年のグランドセイコーの勢いを大いに感じられる傑作モデルとなっております。
なお、当店でも中古モデルが入荷してまいりました。近日中にホームページにアップしていきますので、乞うご期待!
当記事の監修者
田中拓郎(たなか たくろう)
高級時計専門店GINZA RASIN 取締役 兼 経営企画管理本部長
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
当サイトの管理者。GINZA RASINのWEB、システム系全般を担当。スイスジュネーブで行われる腕時計見本市の取材なども担当している。好きなブランドはブレゲ、ランゲ&ゾーネ。時計業界歴12年