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WEBマガジン, 新美貴之

日本人の独立時計師特集―菊野昌宏氏,浅岡肇氏,牧原大造氏―

最終更新日:

ロレックス、オメガ、グランドセイコーにパテックフィリップ・・・
世の中にはたくさんの時計ブランドがありますが、こういった企業に属さず、個人として時計製造を行う「独立時計師」という存在をご存知でしょうか。
ずば抜けた時計製造技術を持ち、自分の名前をブランドとして掲げ、小規模な工房で時計を製造する時計師、と定義してよいと思います。

とは言え一般的には「独立時計師アカデミー」と呼ばれる国際的な組織に属するメンバーを指すことが多いです。
独立時計師アカデミーは数十人のメンバーで構成されていて、認定には超高度な技術が絶対条件となった、選ばれし者たちの集団です。有名どころでは、フランクミュラー氏も独立時計師としてキャリアをスタートさせたことで知られています。
中には「完全マニュファクチュール」を称しムーブメントからネジ、ケース、針、文字盤に至るまで全てを自身で手掛ける稀有な存在も。
大企業と異なり全て一人で製作しているため、年間生産数は100本に満たないことがほとんど。
完全マニュファクチュールの時計師に至っては、1本に半年~1年かけることもあります。
いずれも共通するのは高い技術と希少性。
己の腕とものづくりへの情熱を頼りに、「真の最高級」を目指す存在です。
「孤高の天才」たちが作り上げる傑作の数々は、数千万円単位となることも決して珍しくはありません。

独立時計師 日本
画像引用:菊野昌宏 公式サイト

世界的に見てもごくわずかの存在となりますが、実はこの独立時計師アカデミーに所属している日本人がいます。
それは、浅岡肇氏と菊野昌宏氏。
さらに2019年の今年、牧原大造氏―DAIZOH MAKIHARA-がその一員に加わっております。

今回は、この日本人の独立時計師についてご紹介いたします。
時計界で至高の輝きを放つ、三人の男たちの天賦の才と情熱をお楽しみください。

日本人の独立時計師 菊野昌宏氏

独立時計師 日本
画像引用:菊野昌宏 公式サイト

若干30歳。
その若さにして、日本人として初めて独立時計師アカデミーの正会員となった男がいます。
菊野昌宏氏―「和」のテイストを取り入れた時計が世界的に評価されている独立時計師です。
TBSの『クレイジージャーニー』や『情熱大陸』など幾度かメディアでも紹介されていたため、ご存知の方もいらっしゃるでしょう。

菊野昌宏氏はフランクミュラーに所属したプロフィールを持ちますが、なんと前身は自衛隊員。
それも、入隊の理由は「勉強が好きではなかったから」だそう。
しかし入隊後、上官が身に着けていた機械式時計に魅入られたことがきっかけで時計界に足を踏み入れることとなりました。
ヒコ・みづのジュエリーカレッジ(ジュエリーや時計の専門学校)に入学し、様々な工房を目の当たりにしたり独学で海外の参考書を熟読したりするなどして、若き天才は自身の才能と情熱を開花させていったのです。
菊野昌宏氏の時計を語る言葉といえば、なんといっても「和」。
独創的なデザイン性はもちろんのこと、その製造哲学や実際の過程に至るまで「和」を感じさせます。

独立時計師 日本
画像引用:菊野昌宏 公式サイト

その大きな理由の一つは、あくまで「手作業」にこだわっていること。
もともと、大量生産という概念は産業革命を経たヨーロッパから伝わったもので、日本も多分に漏れずオートメーション化による大量生産を成功させていますが、今なお伝統芸能の分野では手作業がこだわられています。
菊野昌宏氏は機械式時計の世界に携わった直後は、「大きな機械や施設がなければ時計は作れない」―そう思っていたといいます。

しかし、かつて日本人時計師・田中久重が江戸時代に製造した「万年時計」の分解調査プロジェクトに参加した際に一歯一歯ヤスリだけで削りだした歯車が組み込まれているのを目の当たりにし、現代のような大掛かりな機械がない時代でも素晴らしい時計を製造できた、という事実に衝撃を受けます。
そうして確立された現在の手作業スタイル。

独立時計師 日本
画像引用:菊野昌宏 公式サイト

製造する腕時計の設計だけで、半年はかかるといいます。
コンピューターを一切使わず、手ずからの工具や機械のみを扱い、外装を作り上げていきます。
ムーブメントは汎用機をベースに、そこから再設計・加工をしたり仕上げや装飾をしたりと、自分流に染めていくとのこと。
菊野昌宏氏の時計は、受注生産となり、通常の時計専門店で購入することはできません。
時間がかかるゆえ安いものでも数百万、高価格帯だと数千万円の値段がつくことも。

オートメーション化と大量消費社会の波に逆行し、時間をかけて自分の作りたいものをとことん作る。
人のために作ることを「母親の手料理」と例え、「どんなテクノロジーでも置き換えることはできない」と語ります。
そんな独立時計師の作品に、多くの時計愛好家が共鳴し、完成を今かいまかと待ち続けているのです。

菊野昌宏氏の時計

菊野昌宏氏が「和」であるもう一つの理由は、時計そのものにあらわれています。
一見してわかる「和」テイスト。
独創的で風格ある文字盤やケースの装飾は、伝統的な日本調度や庭園に通ずるようなわびさびが醸し出されており、日常使いの時計ではないものの、一生の宝となる工芸品の側面を感じさせます。

朔望

独立時計師 日本
画像引用:菊野昌宏 公式サイト

歴史や文学の中で、常に象徴的な存在である月をモチーフにした作品。
6時位置には、和テイストのムーンフェイズが搭載されています。
ケースもただのゴールド素材ではなく、黒四分一(くろしぶいち)と呼ばれる日本古来からの銀・銅合金で、煮色仕上げによって美しい銀灰色を持った伝統素材を使用しています。
この美しき手巻き時計は値段500万円(税抜)、受注による年度4本生産。
バーゼルワールド2017で発表され、その気品と美しさから世界中の時計愛好家をうならせました。

和時計改

独立時計師 和時計
画像引用:菊野昌宏 公式サイト

江戸時代、日本で完成した「和時計」。
西洋式ではなく、日本独自の時制をもとに作られた時計で、昼夜をそれぞれ6等分し、その一つひとつを一刻とし干支を配すといった様式のものです。
シーズンによって変化する昼夜の長さの違いを独創的に表現するという、四季が美しい日本ならではの時計。
明治期の文明開化とともに実用時計としては廃れた和時計ですが、若き天才がここにきて蘇らせました。
それがこちらの「和時計改」。
ベースムーブメントにはセイコーのキャリバー8Lが使用されているとのこと。
若き天才が復刻したものは和時計だけではありません。
時計に生活を合わせるのではなく、季節のうつろいやわびさびに時計を合わせる生活。
手作業による美しき温かみ。
そんなことを思い出させてくれる一本と言えます。
値段は1800万円(税抜)、受注による年度一本生産。

折鶴

独立時計師 折鶴
画像引用:菊野昌宏 公式サイト

世界三大複雑機構に数え上げられるリピーターと、オートマタ(機械人形)を融合させた、まるで一つの舞台のような作品。
オートマタの折り鶴が端座しており、リューズの上のプッシュボタンを押すと舞を始めます。
ちなみにオートマタ内臓時計はジャケドローやブルガリも出していますが、前者が4000万円超え、後者はなんと5000万円超えという値段が付けられており、いかに高い技術力と設計力が必要かがおわかりいただけるのではないでしょうか。
スクエアフォルムの外装は、日本の船箪笥にインスピレーションを受けたとのこと。
この至極の一本が、「改良を要するため」現在注文を受け付けていないというのだから驚きです。
他にも数は多くないものの、数々の芸術品を作り上げている男が菊野昌宏氏です。

日本人の独立時計師 浅岡肇氏

独立時計師 浅岡肇
画像引用:浅岡肇 公式サイト

菊野昌宏氏に次いで独立時計師アカデミーの正会員となったもう一人の匠は、浅岡肇氏。
2009年、日本人として初となる超複雑機構・トゥールビヨン搭載の高級機械式時計を発表したことで、国内外問わず大きな注目と人気を集めました。
また、浅岡肇氏はムーブメントの設計からパーツ製造、文字盤印刷などを一貫して自身で手掛ける「完全マニュファクチュール」で、世界でも数人しかいない独立時計師となります。

そんな浅岡肇氏のプロフィールもまた独特。
幼いころからものづくりが好きだったという浅岡肇氏。
時計の専門学校やものづくりの大学などではなく、東京藝術大学卒業後、まだコンピューターグラフィックスの技術が一般的でなかった時代に、3DCGなど先端の技術を身に着け、広告業界や雑誌、CDジャケット製作の世界で頭角を現していました。
腕時計のデザインに携わったことをきっかけに、独学で時計製造を始めたとのこと。
しかもその処女作が日本人初となるトゥールビヨン搭載高級機械式時計だというのだから、驚きを隠せません。

独立時計師 浅岡肇
画像引用:浅岡肇 公式サイト

トゥールビヨンとは、時計製造技法の中で最も複雑とされる機構で、機械式時計の精度を狂わす原因となる姿勢差を自ら補正するシステムです。
通常の機械式時計はガンギ車と振り子の役割を担うテンプが固定されていますが、それらを特殊なキャリッジに収め、キャリッジそのものを回転させ、重力によって一定方向にかかりがちなパーツへの負担を均一化する手法。
現在はヒゲゼンマイなどの材質向上や技術飛躍により、腕時計への姿勢差の影響というのは格段に少なくなりました。

しかし、トゥールビヨンの持つ渦のような動き、そして限られたブランドのみが作りうる希少性というのが愛好家にはたまらないポイントで、数百万円~億単位の値段で売り出されているものの、市場での需要に翳りのない複雑機構なのです。
その機構を作り出すのに、150をゆうに超えるパーツが必要となります。
もちろん、それらを組み立てるにも大変緻密な設計と調整を要すのです。
トゥールビヨンというとパテックフィリップやオーデマピゲ、ブレゲといった超一流ブランドのみが製作できる時計という印象がありますが、それだって何本も生産できるものではありません。
一人の天才時計師が、どこのメーカーにも所属せず生み出していることへの驚嘆の大きさがおわかりいただけると思います。

浅岡肇氏は菊野氏とは異なり、受注生産だけではなく通常の市販も行います。
企業とタイアップすることも。
しかし、設計、製造、調整を全て一人で担っているのだから、やはり生産本数が限られることは事実。
値段も、パテックフィリップやランゲ&ゾーネなど雲上ブランド級となります。
一方で浅岡肇氏は「つくりたいものをつくる」ために個人でやっていることも事実。
パーツの設計の仕方、デザイン、仕上げ、装飾・・・全て自分好みに仕上げられるのは、独立時計師という道しかない、と。

浅岡肇氏もまた作品の数々を発表しています。
完全マニュファクチュールであること、製造過程にもこだわりを見せ、自分の理想を思い描くため工作機械をも手動で行い、加工や穴開けを自分好みにすることも畏敬の念を覚えますが、浅岡肇氏の真骨頂はもう一つあります。
それは、デザイン。
グラフィックデザイナー出身というプロフィールを有するからか、高いデザイン性と調和のとれた端正さ、そして妥協のないものづくりへの姿勢が感じられる、至極の腕時計ばかりとなっております。

浅岡肇氏の時計

現在、浅岡肇氏のシリーズは4つとなります。

トゥールビヨン ピュラ

独立時計師 浅岡肇
画像引用:浅岡肇 公式サイト

浅岡肇氏の起源ともなったトゥールビヨン。
その機構の「純粋性を追求」したというシリーズです。
一見するとシンプルさが全面に押し出されていますが、これは受け1枚の構造にしたことにより輪列を最も適した位置に配することに成功しています。
トゥールビヨンのキャリッジはA7075ジュラルミンから削り出されており、軽量ながらも強靭で耐久性の高い素材となっています。

プロジェクトT トゥールビヨン

独立時計師 浅岡肇
画像引用:浅岡肇 公式サイト

航空・宇宙産業の権威・由紀精密、そして世界最高峰と名高い工具メーカーのOSGとタイアップして完成させたシリーズ。
一部の軸受けにボールベアリングを使用し、世界最小ながら抜群の耐久性・耐衝撃性を獲得しています。
また、香箱・輪列、および調速機をモジュールとして構成し、時計精度と耐久性を高めました。
こう書くとムーブメントにだけ注目されてしまうかもしれませんが、美しく仕上げられたDLC加工のケースや端正な文字盤デザインもまた他とは一線を画す出来栄えとなっています。

クロノグラフ

独立時計師 浅岡肇
画像引用:浅岡肇 公式サイト

浅岡肇氏は自身のホームページで、「古典を愛する」と自負します。
1950年代から60年代、ロレックスのデイトナやオメガのスピードマスターなど数々の名機が生み出された時代へのオマージュとして、古き良き味わい深さを感じさせる、それでいて最先端技術を搭載したクロノグラフシリーズを展開。
その精緻な配列を文字盤側で魅せ、機械好きにも時計好きにもたまらない一本となっています。

ツナミ

独立時計師 浅岡肇
画像引用:浅岡肇 公式サイト

シンプルな手巻きモデル。
なのに定価250万円。
しかしその値段が妥当であると、時計を見ると気づかされます。
裏スケからムーブメントを垣間見ると、懐中時計に搭載するような大型テンプや香箱を見て取れます。

独立時計師 浅岡肇
画像引用:浅岡肇 公式サイト

小さなスペースにもかかわらずそれらが端座していることに驚かされますが、隙間を埋めるようにパーツが組み込まれ、決して無駄がありません。
かなりユニークな機構となりますが、時計本来の価値を高めるための仕様になっており、高度な設計力と製造に要される技術は浅岡肇氏ならではと言えるでしょう。
どのブランドとも違った、「浅岡肇」というブランドを確立している所以は、こんなところからも垣間見えます。

日本人独立時計師 牧原大造氏

独立時計師 牧原大造
画像引用:牧原大造 公式サイト

2019年4月、日本人として三人目の独立時計師アカデミー会員となった匠がいます。
その名は牧原大造氏。前述の二名と異なり準会員とはなりますが、今、国内外で抜群の注目度を誇る、新進気鋭の独立時計師です。
自身と同名のブランドDAIZOH MAKIHARAのもと、バーゼルワールド2019で初めて独立時計師アカデミーとして出典を果たしました。

牧原大造氏もまた、その経歴は異色です。なんと、前身は料理人だったと言うのです。
高校卒業後、調理の専門学校に進んだ後、8年間様々なレストランでその腕をふるってきた、とのこと。時計の道へ入ったのは、27歳といくらか遅咲きでした。また、時計専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジに進んだ際は、時計修理に興味を示していたと言います。

しかしながら、あらゆる独立時計師に備わった強運とも言うべきものでしょうか、ある運命的な出会いからその天賦の才を開かせることとなります。某メディアへの出演が縁で、スイスに出向いた時、独立時計師フィリップ・デュフォー氏との出会いを果たしたのです。
フィリップ・デュフォー氏と言えば、知る人ぞ知る天才。世界で初めて腕時計にミニッツリピーターを搭載したことから、「時計の神様」とも呼ばれる御仁です。
天才の時計製造技術を目の当たりにし、感銘を受けた牧原大造氏は、これをきっかけに独立時計師の道を志すこととなりました。

独立時計師 浅岡肇
※フィリップ・デュフォー氏の作品

牧原大造氏の時計製造は、世界的に見てもやや変わっています。
と言うのも、なんと時計製造と彫金(エングレービング)の両方を自分自身で手掛けているのです。
彫金とは、金属への彫刻です。時計の外装のみならず、ムーブメント装飾にも欠かせない技法ですね。
「タガネ」と呼ばれる、鋼製の専用工具を使って、細かなモチーフをあしらっていく手法が一般的となります。
そもそも、時計製造とは技術も作業工程も異なります。オートメーション化した大手ブランドなどではマニュファクチュールの一環として行っているところはありますが、それを個人で行うというのは、本来ならあり得ません。

それを、牧原大造氏は、手作業で行っているのですから、いかに稀有な存在かがおわかりいただけるでしょう。彫金はヒコ・みづの在学中に独学で学んだとのことです。
フィリップ・デュフォー氏はムーブメントに対しての仕上げや磨き、エングレービングが極上だと名高いため、インスパイアされたのかもしれませんが、それを独自でやってのける情熱が牧原大造氏の何よりの強みであり、魅力ではないでしょうか。

独立時計師 浅岡肇
画像引用:牧原大造 公式サイト

さらにもう一点、DAIZOH MAKIHARA作品の大きな特徴をお伝えしなくてはなりません。
菊野昌宏氏とも通ずるところがあるのですが、日本の伝統工芸技術を全面にフィーチャーしていること。事実、牧原氏はブランドコンセプトとして「日本の伝統工芸技術を時計を通じて発信する」と語っています。
デザイン面も、一目見て日本の奥ゆかしい、それでいて精密・精緻な技能が宿されているのですが、その製造方法がまた日本由来。一つひとつを多くの日本伝統工芸と同じように、手作業で丹精込めて作り込んでいるのです。

氏は、自身のホームページでこのように語っていました。
「(手作業で、分業に頼らず一人で行うことによって)他にはない自由な発想で、作品を仕上げることができる」。
「同じものが一つとしてない工芸品のようなオンリーワンのユニークピースとなるよう思いを込めて製作」したい、と。
そんな氏が手掛けたバーゼルワールド2019発表作は、さらに度肝を抜かれるような見事さです。
彫金技術は言わずもがなな美しさですが、その「魅せ方」がまた他の追随を許さないような素晴らしさと言えます。
次項で詳しくご紹介いたします。

牧原大造氏の時計

独立時計師 牧原大造
画像引用:牧原大造 公式サイト

こちらが、牧原大造氏―DAIZOH MAKIHARA―の新作であり、独立時計師アカデミーの一員としての処女作となります。
初見で「ただごとではないな」と思います。
まず目に飛び込んでくるのは、文字盤デザインではないでしょうか。
日本の伝統工芸品のような、と表現することはたやすいですが、その作業工程がまさにクールジャパン!

よくよく文字盤を見てみると、うっすらとムーブメント機構がご鑑賞いただけるでしょう。
実はこの文字盤、通常の時計によく使われる真鍮(しんちゅう。銅と亜鉛の合金のこと)を細工しているのではなく、ガラスを削り出して細工しているのです。
ここで活躍したのが、江戸切子の技術です。

江戸切子

この新作時計のガラスは、サファイアクリスタルの次に硬度が高いとされる、クリスタルガラスを用いています。
そんなガラスを、ここまでの細やかさで加工できるってすごいですよね。牧原大造氏は江戸切子展覧会でその技術やデザイン性に感銘を受け、自身の作品に落とし込むと決めるやいなや、全国の江戸切子の工房に「文字盤製造」の問い合わせを開始したとのこと。そこで受けて立ったのが、埼玉県草加市に位置するミツワ硝子工芸でした。

もともと見事な江戸切子で名高い工房でしたが、カップや風鈴とはちょっと様子が違います。なんせ文字盤という小ささ・薄さで細工を実現しなくてはならないためです。ケースサイズは42mm。決して大きいとは言えません。
しかしながら同工房は、わずか0.5mmのガラス上に、画像のような見事な細工―菊繋ぎ文様―を表現するに至りました。
「落としたらすぐ割れそう」と初見では思いましたが、耐久性と美しさを両立した結果、この厚みで落ち着いたというのだから驚きです。防水性も3気圧を保つこととなりました。
ちなみに菊繋ぎ文様は江戸切子における伝統的な装飾となります。

文字盤上にはインデックスはありません。しかしながら見返しリング(フランジ)のところに控えめに目盛りが刻まれています。やはり手作業で加工されたと言う針は外周インデックスにまで伸びているものの、非常にバランスのとれた配置になっていますね。
クリスタルガラスに江戸切子をあしらったミツワ硝子工芸の技術力もさることながら、それを割らずに組み立て、効果的なデザインを演出した牧原大造氏の腕前も見事と言う他ありません。

独立時計師 牧原大造
画像引用:牧原大造 公式サイト

裏蓋を覗くと、さらに牧原大造氏の腕前を楽しむことができます。
手巻きムーブメントにはお得意の彫金が施されているのですが、桜がモチーフになっており、全面にあしらわれているのです。
仕上げや磨きも素晴らしいのですが、もちろん手作業による仕事です。
ちなみにケースがピンクゴールドなのは、この桜コンセプトと合わせるため。リューズサイドでも桜模様を楽しむことができます。

菊野氏とも遜色ない「和」ですね!海外での評価が高いことは言うまでもありません。
こちらの2019年発表作は、世界限定生産8本。価格は税込みで558万円のこと。
牧原大造氏の、独立時計師アカデミーとしての経歴は始まったばかり。今後の活躍が楽しみです!

まとめ

世界的に見ても非常に少ない独立時計師という存在が日本で、確実に良いものを作りつづけている。
そう思うと、日本人としては誇らしい限りです。
菊野昌宏氏の時計も浅岡肇氏のそれもDAIZOH MAKIHAR作品も、一般の時計専門店で気軽に販売しているものではありません。
年間製造本数の少なさ、そして値段がどうしても高くなってしまうことから、欲しいと思ってぱっと購入するわけにはいきませんね。
しかしながら、世界中で彼らにしかできない作品の数々は、時計愛好家たちを魅了してやまないのです。

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