景気拡大の期間が1965年~70年の高度成長時代を上回り、戦後二番目となる「いざなぎ越え景気」を果たした、と言われている日本経済。
それに伴い高級品需要も拡大していき、国内における高級時計市場は絶好調の波に乗っています。
一方で国内外の情勢を鑑みれば安心してばかりいられない、といった声もよく耳にしますね。
いったい2020年は、日本の高級時計市場にとってどのような年になるのでしょうか。
国内景気や国際情勢、そして各ブランドの戦略などを基に、2020年の展望レポートを作成してみました!
目次
2018年 日本国内経済動向を振り返る
まず初めに、2018年の日本の国内景気動向をおさらいしてみます。
2012年12月以来、1965年から1970年まで57か月間(4年9か月)続いた「いざなぎ景気」の期間を越え戦後二番目となった、と言われている近年の景気拡大。
その波は2018年前半に非常に顕著で、景況感は一気にアップ。それに伴い訪日客だけでなく、日本人の消費意欲もまた旺盛になりました。
百貨店で見ると大手5社(三越伊勢丹、高島屋、大丸松坂屋、そごう・西部、阪急阪神)を中心に売上高はここ数年の不調が嘘のように総じて盛り返しており、とりわけ高級品の売上が好調とのことです。
しかしながら西日本豪雨や連日の台風直撃、大阪北部地震や北海道胆振(いぶり)東部地震など相次ぐ災害による日本人の買い控えや訪日客の一時減少。
そして米中貿易摩擦やカナダ・アメリカの経済不振、欧州連合(EU)のぐらつきなどによる国際情勢の不透明化。さらに日本経済の大きな部分を支えていたという中国人の高級品消費の失速などから、2018年下半期には経済の先行きへの懸念が日本国内に広がりました。
そうは言っても訪日客は7年連続で最高記録を更新。2018年に3119万人を突破しました。東アジアからの客足が災害によって一時減少はしましたが、最終的にプラスに持ち直し、とりわけ中国は今なお巨大なシェアを占めています。
また、大手百貨店でも暖冬の影響などで冬物衣料は苦戦を強いられているようですが、高額品は高い売り上げを維持しています。
こうして見ると、2018年の日本経済は上昇ラインを描いていた、と捉えていいのではないでしょうか。
その状況は高級時計市場にも如実に反映されました。
パテックフィリップやロレックス、オーデマピゲなど高級時計を代表する有名ブランドの相場は軒並み上昇。今なお高騰に天井が見えず、デフレが長く続いた日本では過去類を見ない状況です。
加えてどこの国にも言えることですが高級時計市場は、海外情勢に大きな影響を受けます。
欧州経済はあまりパッとしないと言えど、スイス時計産業自体は絶好調。また、東・東南アジア圏の国々が経済成長を果たし、高級時計への需要がかつてないほど高まったことも市場拡大の大きな要因と言えます。
つまり、日本国内外の好景気の流れが重なって、前例のなかった高級時計市場を形成しているのでしょう。
もちろん国内メーカーへの需要も決して低くはなく、セイコーやシチズンが展開する「ソーラー時計」「GPS電波時計」などのハイテクノロジーウォッチが堅調です。加えて、上がりすぎた海外ブランドを敬遠し、国産時計に流れていく層は少なくありません。
日本は2019年は新元号となり、そして今年2020年はついに東京オリンピックが間近になりました。さらに景況感が上昇する可能性は十二分。
これらを総括すると、2020年の日本の高級時計市場は、あるいは2018年・2019年以上の伸びしろが期待できるのではないでしょうか。
次項以降で、そう展望する理由を具体的に解説いたします。
2020年 日本の高級時計市場への展望①世界的に高い日本市場への注目度
2020年の日本の高級時計市場に、昨年以上の伸びしろが期待できるという最大の理由が、世界各国の日本市場への注目度の高さです。
中国市場の圧倒的な拡大から、かつて「もはや日本は世界から相手にされていない」なんて言われていました。
しかしながら、日本は海外―とりわけスイス時計産業にとって小さくない取引国です。
実際2019年のスイス時計対日輸出は、香港、米国、中国に次いで日本が4位となりました(スイス時計協会による)。
その事実を裏打ちするのが、海外ブランドが続々と日本上陸を果たしていることです。
2019年の最も大きなニュースのうちの一つは、ロレックスの弟分・チューダー(チュードル)が、ぞくぞくと正規店を上陸させていることでしょう。
ちなみにチューダーばかりがフォーカスされがちですが、もちろん一社に留まりません。
フランス発の「レゼルボワール」、やはりフランス発で老舗の「YEMA(イエマ)」、スイス屈指の個性派「フランクデュバリー」などが2018年以降、日本へ進出しているのです。
↑2018年日本に上陸したチューダーの主力商品ブラックベイ
前述の通り、高級時計は海外勢に大きく影響を受けます。
そのため、現在の海外ブランドからの熱視線を鑑みれば、日本市場がまだまだ盛り上がっていくことを示唆しているでしょう。
有名ブランドの日本法人も、訪日客のみならず日本人購入層を視野に入れたブランド戦略を行っていると言います。
例えばオーデマピゲは、日本の顧客はものづくりを尊重している、と語り、高級品への関心や需要が強いことを強調してきました。実際、日本は過去大きなデフレや不況の波に見舞われた時であっても、高級時計のステータス性や魅力を見出す価値観を捨てず、連綿と根付かせてきた過去があります。
このように、世界的に見て日本というマーケットは大変魅力的。
海外からの注目度は今後ますます高まるでしょう。2020年、日本の高級時計市場をまた押し上げる一要因になることは想像に難くありませんね。
2020年 日本の高級時計市場への展望②さらなるミレニアル世代の取り込み
ミレニアル世代に決まった定義はありませんが、2000年以降に成人になった、現在20代~30代の若者世代を指すことが多いでしょう。
デジタルネイティブとも言われるほどインターネットやパソコンのある生活環境下で育ってきたためこれらが生活に根付いており、SNSの使用がどの世代よりも盛んなことが特徴です。
この世代は、2019年以降世界の人口の約3割を占めると言われており、少子化が進む日本であっても全体の約2割がこれに当たります。
このミレニアル世代をどう顧客にしていくかというのが、近年の高級時計ブランドにおいて大きな課題です。
と言うのも、現在の若年層に従来通りのブランド戦略は通じなくなったと言われているためです。
かつてラグジュアリーブランドは敷居を思いっきり高くし、それなりの富裕層だけが購入すればよい・・・そんな、選民主義的な売り方が主流でした。もちろんそれはそれでブランド戦略としてはアリです。
なぜならそれは高級品の「ラグジュアリー感」「高級感」を大切にしているため。
価格がモノの価値を決定する、という現象が現代社会では往々にして発生するからです。
しかしながら現在のミレニアル世代にこういった戦略は通用しません。
決して高級品に興味がないわけではありませんが、より個性や利便性を追求していることが目立つためです。また、SNS等を駆使して、ブランドのプロモーション活動より口コミや仲間内での共感性に大きく影響を受けることも要因でしょう。
この若い世代のマインドをいち早く察し、成功を果たしたスイス老舗企業がタグホイヤーです。
タグホイヤーは購入層のターゲットを幅広くとり、10万円台のエントリーモデルからハイエンドまで多彩なラインナップを展開していることももちろん小さくありませんが、何より若い世代の心をわしづかむことがとっても上手なのです。
最もそれが顕著に現れているところは、スポーツ業界との強い結びつきでしょう。
出展:https://www.tagheuer.com/ja-jp
タグホイヤーはF1などの有名レーシングチームのスポンサードを務めたり、世界各地のプロサッカーリーグのオフィシャルタイムキーパーとして活躍したりと、人気の高い業界からアプローチすることによって、まだタグホイヤーを知らない・購入を考えていない世代にも認知させることに成功しています。
実際、時計ブランドに詳しくない方であっても、タグホイヤーの社名やロゴを知っている、という方は少なくないでしょう。
近年ではJリーグとのパートナーシップを進めており、2016年にはJリーグ初となるオフィシャルタイムキーパーを務めることとなりました。
この「スポーツを通じて」というのは何もタグホイヤーだけでなく、オメガやウブロ、ロレックスなども試みている戦略です。
もともとは欧州を中心に発展したものでしたが、現在は日本市場においても功を奏し、若者世代の獲得に一役買っています。
日本は2020年に東京オリンピックを迎えるので、ますますスポーツへの注目度は高まりを見せるでしょう。
ミレニアル世代を上手に取り込めば、2020年、日本の高級時計市場はさらなる飛躍を遂げることは間違いありません。
2020年 日本の高級時計市場への展望③日本メーカーの躍進
海外ブランドにフォーカスしておりますが、もちろん日本発メーカーもわが国の高級時計市場に大きく貢献しています。
ただ、やはりスイス勢と比較するとやや精彩を欠くかな、という面もあります。
実際当店でも、売れ筋と言うとロレックスやオメガ、タグホイヤーなど海外ブランドの名前が挙がります。
高級時計は日用品と言うよりも嗜好品のうちの一つですので、どちらかと言えば実用面が重視されがちな日本メーカーは高級時計市場においては弱いのでしょう。
しかしながら近年、とりわけ東・東南アジアで日本メーカーウォッチへの需要が高まっています。
従来の機械式時計やクォーツアナログではなく、ソーラー時計やGPS電波時計など、ハイテクウォッチへの注目度が非常に高いのです。
ちなみにソーラー時計は1990年代シチズンの『エコ・ドライブ』が、GPSソーラー時計はセイコーの『アストロン』がそれぞれ先鞭をつけました。
↑世界初GPSソーラーウォッチとして大人気のセイコー アストロン SBXB055
また、2017年よりグランドセイコーがセイコーから独立し、よりラグジュアリー路線を強める戦略を取り始めました。
同様にシチズンも、2016年にフレデリック・コンスタント、アルピナ、デモナコなどスイス高級時計メーカーを続々買収し、従来よりはるかに高価格帯の製品開拓を開始しています。
もちろん「高価格帯」とは言っても、一本で50万円以上が当たり前のスイス勢と比較するとまだまだエントリーブランドの域は出ていません。
しかしながら高級時計の好調が追い風になって、実績を伸ばしている現状があります。「高価格帯への切込み」と併せて、これまで培ってきた堅実な日本メーカーへの信頼感を上手に活かせているのでしょう。
2020年にますます日本メーカーが高級時計市場でのシェアを拡大すれば、その分国内マーケットも伸びていくことが予想されます。
2020年 日本の高級時計市場への展望④さらに高騰!?天井の見えない時計相場
2018年~2019年の高級時計市場をひとくちに言うと、「価格高騰」。これにつきます。
とりわけロレックスやパテックフィリップのそれは、時計好きなら気にならないわけがありません。
現行ロレックスのデイトナ 116500LN 白文字盤は現在270万円近く、GMTマスターIIの116710BLNRは150万円近く、パテックフィリップのノーチラスはとうに600万円超え・・・
もともとロレックスのスポーツモデルは特に需要が集中しプレミア化しやすい傾向にありましたが、ほとんどの個体で軒並み高騰した2019年は異例とも言えます。
高騰の理由としてよく「為替相場変動」が挙げられるのですが、実は2018年初めからの一年でそう大きくは変わっていないのです。
米ドル/日本円チャート
出典:https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/usd.html
これは、国内外でそれだけ高級時計への注目度が高まったという証明に他なりません。
国内の景況感にかかわらず、今ロレックスを中心に相場は上昇し続けていっており、この流れは間違いなく2020年も続くでしょう。
個人的な見解になりますが、私は、高級時計メーカーが製造するモデルが刺激的であり続ける限り、国内外問わず高級時計市場は拡大していくと思っています。
もちろん経済状況によって変わってまいりますが、上記のように考えるとまだまだ拡大の一途を辿りそうですね!
まとめ
2020年 日本高級時計市場の展望をレポートしてみました!
まだ2020年は始まったばかりですが、今年は新元号の発表や東京オリンピック前年と世間が盛り上がりを見せそうなイベントが控えます。
そのため好景気の風が吹けば、日本の高級時計市場もさらにさらに明るくなることでしょう。
そんな楽しみである高級時計。当店でも今年一年、時計の情報をたくさん発信していきたいと思います!!
当記事の監修者
南 幸太朗(みなみ こうたろう)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン プロスタッフ
学生時代に腕時計の魅力に惹かれ、大学を卒業後にGINZA RASINへ入社。店舗での販売、仕入れの経験を経て2016年3月より銀座本店 店長へ就任。その後、銀座ナイン店 店長を兼務。現在は営業企画部 MD課 プロスタッフとして、バイヤー、プライシングを務める。得意なブランドはパテックフィリップやオーデマピゲ。時計業界歴13年。