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2021年も、各社オンライン上での新作発表がメインとなった時計業界。

オンラインとは言え旧SIHHから名前を変えたWatches & Wondersが、旧バーゼルワールドに参画していたロレックス,パテックフィリップ,チューダー等を引き込んで、非常に大規模に催行されることとなりました。また、オーデマピゲやオメガ等、独自の新作発表を行うブランドも増え、その盛り上がりは例年通りと言っていいでしょう。

この記事では、コロナ禍にも負けずに堂々リリースされた2021年新作のうち、特筆すべき10本を厳選してご紹介いたします。

ロレックス,パテックフィリップ,パネライにグランドセイコー・・・2021年、最も熱い一本はこれだ!!!

 

2021年新作①ロレックス エクスプローラーI 124273

ロレックス エクスプローラーI 2021年新作

出典:https://www.rolex.com/ja

スペック

外装

型番: 124273
ケースサイズ: 直径36mm
素材: イエローロレゾール(SS×YG)
文字盤: ブラック

ムーブメント

ムーブメント: Cal.3230
駆動方式: 自動巻き
パワーリザーブ: 約70時間

機能

防水: 100m
定価: 1,142,900円(税込)

最初に2021年新作選としてご紹介するのは、ロレックスです!各社から傑作の数々がローンチされましたが、やはり話題性の高さにおいてロレックスが頭一つ抜きんでていると言っていいでしょう。

バーゼルワールドで「BIG5」の一角を成し、Watches & Wondersでも大きな存在感を示したロレックス。新作発表直後から「次の新作予想」が出回るほど、時計愛好家からの関心は非常に高いものがあります。発表の一週間前からはティザームービーが公開され、どんな新作が出るのか喧々諤々でしたね。

 

新作の顔触れは大方の予想通り、エクスプローラーIとエクスプローラーIIでした。

しかしながらエクスプローラーIに、コンビモデルが追加された―この発表に驚かされたファンも多いのではないでしょうか。

ロレックス 2021年新作

出典:https://www.rolex.com/ja

エクスプローラーIは、1953年から続くロレックスの一大人気コレクションです。探検家のため、というコンセプトのもと、堅牢かつシンプルで汎用性高いデザインを持つことが特徴ですね。

2010年に214270がリリースされると、ケースサイズが従来の36mmから39mmへとアップ。

2016年にはこの大型化に伴い時分針が再設計され、また3・6・9インデックスにもクロマライト夜光が塗布されるといった、さらなるユーザビリティの向上が図られました。

しかしながら2021年にリリースされた新型エクスプローラーI、驚くべきことに214270のモデルチェンジではなく、その先代Ref.114270の進化版でした!具体的には先代のケースサイズ36mmへと回帰。また、文字盤レイアウトも114270に近いものとなり、リファレンスも124270へ。往年のエクスプローラーIが帰ってくることとなりました。

 

ロレックス 2021年新作

出典:https://www.rolex.com/ja

一方で、歴代エクスプローラーIではあまり見られなかったイエローロレゾール(ステンレススティール×イエローゴールドのコンビ)モデルが追加されたことは、思いがけないことでした。エクスプローラーは堅牢であることが求められていたがゆえ、剛性の高いステンレススティール素材がメインに扱われてきたためです。

とは言えイエローロレゾールのエクスプローラーI 124273、宣材を見ると「なかなか良い」と思いませんか?事実、色々な声はあるようですが、概ね高評価を得ていると感じています。

SSエクスプローラーIとは異なりブレスレットセンターにあしらわれたイエローゴールドがポリッシュ仕上げされており、華やかな印象が強まりました。

もともとデイトナやサブマリーナ,2020年にリリースされたシードゥエラー等でスポーツロレックスとイエローロレゾールの親和性は証明されています。そのため新型エクスプローラーIのデザイン性の高さは、多くの愛好家が認めるところなのではないでしょうか。

ちなみに針・インデックスは従来ホワイトゴールド製となりましたが、フチ取りにイエローゴールドが用いられているところもコンビらしさを放ちます。

ロレックス 2021年新作

出典:https://www.rolex.com/ja

なお、基本スペックはステンレススティール製のエクスプローラーIと変わりません。

歴代エクスプローラーの多くがそうであったように、防水性能は100m。

また新世代ムーブメントCal.3230が搭載され、約70時間のロングパワーリザーブ他,巻き上げ効率の向上等が図られました。なお、引き続きエクスプローラーIらしい耐衝撃性・耐磁性と言った「探検家のための堅牢性」も健在ですので、ワンランク上のスポーツウォッチとして、非常に完成されていると言えるでしょう。

 

定価は税込1,142,900円。

もっとも現在、ロレックスの定価はあってないようなものです。

なぜなら世界的な需要の高まりにより、スポーツロレックスを中心に常時品薄。各国正規店での購入の難易度が高く、また供給が需要に追い付かないことから実勢相場がここ5年ほど、高まり続けているのです。

ほとんどのスポーツロレックスは定価を超える相場となっており、エクスプローラーIも御多分に漏れず。今回のモデルチェンジによって生産終了となった214270を中心に、急騰と言っても良い形勢を描いています。

新型エクスプローラーI 124273は同シリーズ初(現代において)のコンビモデルとなるため、どのような実勢相場となるかはわかりませんが、エクスプローラーIの人気の高さ,加えてコンビモデルの完成度の高さから、やはり定価超えのプレミア価格で進行していくことが予想されます。

国内入荷は例年通りであれば、5月か6月。実機を早く見たいという気持ちと同時に、実勢相場もまた気になる2021年新作モデルです。

2021年新作②パテックフィリップ カラトラバ 6119R/6119G

パテックフィリップ 2021年新作

出典:https://www.patek.com/en/home

スペック

外装

型番: 6119R / 6119G
ケースサイズ: 直径39mm×厚さ8.1mm
素材: ローズゴールドまたはホワイトゴールド
文字盤: シルバーまたはチャコールグレー

ムーブメント

ムーブメント: Cal.30-255 PS
駆動方式: 手巻き
パワーリザーブ: 約65時間

機能

防水: 30m
定価: 3,399,000円(税込)

次にご紹介するのは、同じくバーゼルワールドでは「BIG5」に名を連ねてきた、パテックフィリップです!また、同社は世界最高峰の時計メーカーと称されており、歴代オーナーにはヴィクトリア女王やローマ教皇の他、アインシュタイン、キュリー夫人、ブッシュ大統領、大正天皇に昭和天皇等…錚々たる人物が挙げられます。

そんなパテックフィリップ、Watches & Wondersで最も注目されていたのは、ノーチラスの行方だったかもしれませんね。

もちろんノーチラスにも特筆すべき新作が追加されることとなったのですが、今回取り上げたいのは新型カラトラバです!2019年に惜しまれつつも生産終了していたRef.5119の系譜を受け継いだ新作 Ref.6119がリリースされたのですが、なんと、新開発の手巻きムーブメントを伴っていたのです

パテックフィリップ 2021年新作

出典:https://www.patek.com/en/home

カラトラバは1932年に登場した、パテックフィリップを代表するコレクションです。ちなみに当時の世界的恐慌やこれに伴う同社の経営難を救うこととなった、名手でもあります。

長い歴史の中で様々なデザインがラインナップされていきますが、いずれも「世界の丸型時計の規範」「名門ドレスウォッチの本質」などと称されます。

それは、カラトラバの根幹にはバウハウスの「形態は機能に従う」という方針が根付き、シンプルで洗練された美しさが連綿と受け継がれてきたからに他なりません。

※バウハウス…ドイツにあった先進的な芸術学校のこと。機能を追求し、機能によってそのフォルムが決定する、というのが一つの考え方として根付いていた。

 

そんなカラトラバの中でも、Ref.5119はクル・ド・パリ装飾(ホブネイルとも)が施されたベゼルを持つ、非常に美しい一本でした。

パテックフィリップ カラトラバ 5119

※Ref.5119

5119のベゼル装飾を受け継ぎつつも、ラグや文字盤は初代96(クンロク。初代カラトラバの系譜を引くモデルのリファレンスには96が付く)を思わせる意匠に。また、ケース直径は39mmへとアップサイジングかつインデックスがアプライドされ、よりラグジュアリーテイストの強い外装に仕上がりました。

 

この完成された外装に収められた手巻きムーブメントCal.30-255 PSは、前述の通り全く新しい機械となります。新作カラトラバのために開発されました。

 

従来、カラトラバのスモールセコンドモデルはCal.215 PSが主役を張ってきました。しかしながら決してケース直径の大きいモデルのためのムーブメントといったわけではなく、併用されていた形です。そこで大型カラトラバ専用機として、新開発に至ったのでしょう。

パテックフィリップ 2021年新作

出典:https://www.patek.com/en/home

さらにこのムーブメントにより、新作カラトラバの実用性はいや増しています。パテックフィリップは「造形美とパフォーマンスを融合」させたと語りますが、看板に偽りなし。

Cal.30-255 PSはツインバレルによってなんとパワーリザーブを約65時間まで延長しました。従来、カラトラバのパワーリザーブは「ロング」というほどではありませんでした。Cal.215も、約44時間程度。

また直径は大きくなっていますが厚みは215と同様に2.55mmで、28,800振動/時と両立されています。なお、パテックフィリップも自負するようにテンワの慣性モーメントがきわめて高いがゆえに、安定した高精度を維持していくことでしょう。

さらにパテックフィリップではあまり積極的に採用されてこなかったハック機能が搭載されており、秒単位の精密な時刻合わせが可能となりました。

※慣性モーメント…物体の回転制御の難易度を表したもの。機械式時計ではテンワの回転を指し、慣性モーメントが大きいということはその分回しづらく回転を止めづらい。これは、安定した精度維持につながる。

 

新作カラトラバのラインナップは、ローズゴールドの6119Rとホワイトゴールドの6119G。前者がシルバー文字盤,後者がグレー文字盤です。

パテックフィリップ 2021年新作カラトラバ

出典:https://www.patek.com/en/home

もっとも市場への出回りはいつになるのか…

既に予約は始まっているようですが、パテックフィリップはハイメゾンゆえに大量生産とは無縁です。

カラトラバ自体は製造期間の長さゆえに比較的よく出回っていますが、近年のモデルとなると話は別。

とは言え新作ノーチラスと並んで、非常に耳目を集めている一本であることは間違いありません。こちらもまた、早く実機を見て、新生手巻きムーブメントの操作感を味わいたいですね!

2021年新作③オメガ スピードマスター プロフェッショナル 310.30.42.50.01.001

オメガ 新型スピードマスター プロフェッショナル

出典:https://www.omegawatches.jp/ja/watches/speedmaster/moonwatch-professional/product

スペック

外装

型番: 310.30.42.50.01.001 / 310.30.42.50.01.002他
ケースサイズ: 直径42mm×厚さ13.1mm
素材: ステンレススティール
文字盤: ブラック

ムーブメント

ムーブメント: Cal.3861(コーアクシャル×マスタークロノメーター)
駆動方式: 手巻き
パワーリザーブ: 約50時間

機能

防水: 5気圧
定価: 737,000円または847,000円(税込)

3つ目にご紹介するオメガは、ロレックスやパテックフィリップのようにWatches & Wondersには参画せず、独自で新作発表を行いました。また、今回ご紹介するスピードマスター プロフェッショナルは、1月5日―年初のSpeedy Tuesday―、いち早くローンチされた2021年新作となります。

※Speedy Tuesday…スピーディー・チューズデーとは、熱烈なオメガファンによって始まった試み。毎週火曜日に#SpeedyTuesdayのハッシュタグを付け、スピードマスターの写真やコメントが配信されている

 

スピードマスター プロフェッショナルは、オメガのアイコン的存在です。

とりわけ月面着陸に携行され、NASAの宇宙飛行士らをサポートしたことから「ムーンウォッチ」の称号を得たことは、ファンにはおなじみのエピソードですね。

ちなみに1966年にNASAの公式装備品に正式採用されて以降、文字盤に「PROFESSIONAL」のロゴを冠することとなりました。また、初代モデルから、由緒正しい手巻きクロノグラフを受け継いでいることもスピードマスターの存在を特別なものとしています。

そんなスピードマスター プロフェッショナル、2014年以降、Ref.311.30.42.30.01.005とRef.311.30.42.30.01.006が長らく基幹モデルとして同コレクションの人気を下支えしてきました。

しかしながら2021年、最初のSpeedy Tuesdayにて、ついにモデルチェンジを果たすこととなります。

 

出典:https://www.omegawatches.jp/ja/watches/speedmaster/moonwatch-professional/product

新作として発表されたのは、Ref.310.30.42.50.01.001とRef.310.30.42.50.01.002。

前者がドーム型ヘサライトガラス(プレキシガラス。プラスティック風防の一種)搭載・ソリッドバック仕様,後者がボックス型サファイアクリスタルガラス・シースルーバック仕様です。

※それぞれでナイロンストラップ搭載モデルも同時リリースされています。

 

一見すると、先代とあまり違いがないようにも見える当新作、実は細かな部分に改良…そしてヴィンテージデザインの復刻が行われており、オメガファンや時計愛好家には堪らない仕上がりとなっているのです。

「ヴィンテージデザインの復刻」と申し上げましたが、モチーフはスピードマスター プロフェッショナルの第四世代、Ref.ST105.012に見られます。

 

 

ちなみにこの第四世代の製造は1964年~1968年頃までで、前述したNASA公式装備品に採用されています。現代スピードマスター プロフェッショナルのデザイン基礎を築いたとも言われている、同社の歴史にとって非常に意義深いモデルです。

オメガ スピードマスター プロフェッショナル ST105

※ST105.012

では、どのような部分がヴィンテージデザインの復刻なのかと言うと、まずステップダイアル―通称「段付き文字盤」―です。

文字盤の外周・内周で段差が設けられており、フラットなイメージの強かった先代に立体感が加わりました。また、これに伴いインダイアルにも段が付けられています。

タキメーターベゼルも特筆すべき「ヴィンテージ仕様」が見受けられます。それは、ドット・オーバー90およびドット・ダイアゴナル・トゥ70です。

オメガ スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル コーアクシャル マスタークロノメーター 310.30.42.50.01.002

これは、タキメーター90のドット印字のこと。従来は数字のすぐ横であったことに対し、最新作では90の斜め上にドットが描かれています。また、70位置も同様に変更されており、数字に対して斜め位置にドットが打たれました。

 

さらにクロノグラフ針の根本は第四世代(そして第三世代も)にも見られる菱形となり、先端がかなり大胆に曲げられていることも特徴です。

この曲げ針、インデックスと針の距離を詰めることで視認性向上の役割を持つとされ、かつて職人たちによって手でひと手間かけられていた仕様です。近年ではあまり見られなくなってきましたが、新型スピードマスター プロフェッショナルではあえて採用されているようです。

 

オメガ スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル コーアクシャル マスタークロノメーター 310.30.42.50.01.002

また、ケース厚が若干薄くなり、20g強軽量化。

さらにバックル・ブレスレットが再設計され、大きく改良されています。

とりわけ、従来どこか無骨すぎたバックルがスリム化し、ブレスレットとシームレスになったことは着用感の向上に大きく寄与しています。

オメガ スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル コーアクシャル マスタークロノメーター 310.30.42.50.01.002

左:新型バックル / 右:旧型バックル

 

そして今作最大のアップデートは、ムーブメントです。

レマニアCal.321の系譜を引く手巻きクロノグラフがスピードマスター プロフェッショナルには受け継がれてきましたが、2019年に最新作Cal.3861がオメガから発表されます。当時は限定生産であったものの、2021年、ついにレギュラーモデルでの搭載に至りました。

このCal.3861、先代Cal.1861をベースにしているものの、脱進機がついにコーアクシャル化。さらに悲願のマスタークロノメーター認定機となり、きわめて高い実用性を与えることとなりました。

※コーアクシャル…オメガが1999年から採用し始めた新しい脱進機。2007年以降、自社開発ムーブメントで順次採用を進めている。大きな特徴としてはパーツ同士の摩耗が少なく、ムーブメントのオーバーホール期間を従来品よりも大幅延長する、というもの。

※マスタ―クロノメーター…オメガがスイス連邦計量・認定局(METAS)と共同で制定した時計の品質規格。主にコーアクシャルムーブメントのための工業規格であったが、高精度であることはもちろん、15,000ガウスもの高耐磁性能が基準となっていることから、業界内でもきわめて高い注目度を有している。

 

また、これまたオメガが意欲的に進めてきたフリースプラング化を果たしたことも大きな特徴です。これは精度調整のための機構で、従来の緩急針より精密な調整が可能かつ高精度を安定的に維持できます。

近年、フリースプラングは高級時計のスタンダードになりつつあり、大きな進化と捉えることができますね。

オメガ スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル コーアクシャル マスタークロノメーター 310.30.42.50.01.002

きわめて高い精度(オメガテスト環境下では日差0秒~+5秒までと追い込まれました),耐磁性能,そしてコーアクシャル化によってメンテナンススパンが延長され、当該スピードマスターはよりプロフェッショナルに寄り添った一本に仕上がったと言えるでしょう。

 

なお、こちらの新作は1月発表と言うこともあり、既に市場に出回っています。当店GINZA RASINでも先日シースルーバックのRef.310.30.42.50.01.002が入荷してまいりました。

その際の販売価格は788,000円。

ちなみに定価は310.30.42.50.01.001が737,000円,310.30.42.50.01.002が847,000円となっております。

これだけ歴史あるモデルの、最新世代としてはかなり良心的。さすがコストパフォーマンスに定評のあるオメガですね。もっとも旧型の方がジワジワ相場を上げてもおります。欲しい方は、早めにチェックしておくことが吉でしょう。

2021年新作④ザ・シチズン メカニカルモデル キャリバー0200

シチズン 2021年新作 Cal.0200

出典:https://www.citizen.co.jp/release/news/2021/20210304_3.html

スペック

外装

型番: NC0200-90E / NC0200-81L / NC0200-06A
ケースサイズ: 直径40mm×厚さ10.9mm
素材: ステンレススティール
文字盤: ブラック / ブルー / シルバー

ムーブメント

ムーブメント: Cal.0200
駆動方式: 自動巻き
パワーリザーブ: 最大60時間

機能

防水: 5気圧
定価: 605,000円~825,000円(税込)

四番目の特筆すべき「2021年新作」は、わが国が誇るシチズンのハイエンドライン「ザ・シチズン(ザシチ)」から。11年ぶりに開発された新キャリバーとともにご紹介いたします!

 

「永く、広く市民に愛されるように」といった思いが込められたシチズンの名の通り、同社は普及価格帯でありながら、ハイスペック製品を多数生産し続けてきました。一方で人気の中心はエコドライブや高精度クォーツでもありました。

しかしながら近年、シチズンはフレデリック・コンスタントやアーノルド&サンといった名門時計ブランドを買収しており、高級機械式時計市場にうって出ています。今回の新作の目玉となるムーブメントCal.0200もまた、アーノルド&サンとともにシチズン傘下となったラ・ジュー・ペレ社と共同のもと、販売に至りました。

※ラ・ジュー・ペレ…スイス ラ・ショー=ド=フォンに本拠を置くムーブメント製造会社。エボーシュからコンプリケーションまで幅広いムーブメント製造を手掛けており、名門ブランドにも供給してきた実績あるメーカー。

 

こういった背景があることから、当新作はまさに「和洋折衷」とも言うべき一本に仕上がりました。

まずCal.0200についてご紹介すると、前述の通り2010年以来11年ぶりとなる、シチズンの自社開発ムーブメントです。ちなみに2010年に開発されたCal.0910が「30年ぶりの自社開発機械式ムーブメント」であったことを知ると、いかにシチズンがエコドライブ・クォーツに力を入れていたかが垣間見えますね。

シチズン 2021年新作 Cal.0200

出典:https://twitter.com/CITIZENWATCHJP

良い機械式時計とは何か、と聞かれると様々でしょうが、精度や信頼性の高さはやはり重要な一つの指標ですね。

シチズンでは新開発キャリバーの製造にあたって、クロノメーター規格を超える高精度を実現しました。シチズンのテスト環境下で、その平均日差は-3秒~+5秒とのこと。ちなみにケーシング後も、17日間に及ぶ厳格なテストが実施されており、シチズン自身が信頼性に太鼓判を押しています(自社企画検定合格証付き)。

この高精度を実現するために、これまでのシチズンの機械式時計ではあまり見受けられなかったテクノロジーが採用されました。

その一つが、フリースプラング・テンプの採用です。

フリースプラングは前項のオメガでもご紹介しているように、ロレックスやショパール,オーデマピゲといった高級時計ブランドを中心に採用されている調整スタイルです。高精度を安定的に維持できる一方で、ハイレベルな部品精度を要する等、製造コストがかかりがち。しかしながらシチズンでは、今回のCal.0200でフリースプラングの採用に至りました。従来品とは一線を画す、高級機械式時計である、との自負を持つのでしょう。

なお、このフリースプラング・テンプの製造にはLIGA工法を用い、高精度パーツの採用を実現しました。

※LIGA…微細構造物形成技術。フォトリソグラフィと電鋳(電解メッキ)を利用した加工技術のこと。MEMS技術の一種で、高精度パーツや微細形状パーツ製造で用いられる

 

フリースプラング・テンプは耐衝撃性や耐摩耗性に優れているところも、安定的な「精度維持」に繋がりますね。パワーリザーブ最大60時間と、近年のスタンダードにまで落とし込んでいるのも、ユーザビリティの高さが伺えます。

 

もっともこれらの工法は、既にエコドライブムーブメント製造で培ったノウハウとのことです。しかしながらラ・ジュー・ペレ社とともに開発した結果、これまでのシチズンではあまり重要視されてこなかった(と思われる)「ムーブメントの審美性」を獲得しました。

近年、裏蓋や文字盤のシースルー化によって内部機構を「魅せる」仕様がトレンドの一つです。

一方でただ「ムーブメントを見せました」だけでは面白みがないことも事実。そこで各社は丁寧な仕上げ・装飾を施すことで、見た目に美しい、まさに「魅せる」仕様としたムーブメント製造にも力を入れています。

シチズン 2021年新作 Cal.0200

出典:https://www.facebook.com/CITIZENwatch.jp/photos

 

シチズンはその点、スイス製に後塵を拝していたイメージがあるかもしれません。しかしながらラ・ジュー・ペレ社の装飾技術を吸収したシチズン・マイスターらによって完成されたCal.0200は、ブリッジや歯車といった各パーツに美しいサティナージュ(直線状の装飾)やペルラージュ(円・半円が連なった装飾)を持った、類まれな名機に仕上がりました。まさに「和洋折衷」ですね!

 

なお、ザシチ屈指の2021年新作モデルの凄さは、Cal.0200だけに留まりません。

これまた「和洋折衷」が活きた外装デザインも見ものです。

シチズン 2021年新作 Cal.0200

出典:https://www.facebook.com/CITIZENwatch.jp/photos

これまで国産時計にはあまり見られなかった、ラグジュアリー・スポーツウォッチの様相を呈します。ラグを持たずケース・ブレスレットが一体型となったフォルム,随所に効いたエッジ,大胆なヘアライン仕上げ…

直径40mm×厚さ10.9mmのちょうどよいサイズ感のケースと相まって、近年のトレンドを上手に取り入れていると言えるでしょう。

一方で文字盤からは「和」が感じられます。

レギュラーモデルではブラック・ブルーの二色展開となりますが、ブラックは電鋳によって砂地があしらわれて落ち着いた印象を。そしてブルーはサンレイ仕上げによって上品な光沢を実現しました。

クラシカルなスモールセコンドとともに、当新作の魅力を押し上げます。

 

ちなみに55本限定ですが、ブラック同様に電鋳工法によって砂地模様があしらわれたホワイトカラーもラインナップされています。

シチズン 2021年新作 Cal.0200

出典:https://www.citizen.co.jp/release/news/2021/20210304_3.html

 

いずれもザシチのシンボルでもあるイーグルマークがあしらわれており、特別感が醸し出されていますね。

※イーグルマーク…ザシチのアイコン。1960年代に製造されていた「シチズン クロノマスター」で採用されたエングレービングを採用しており、時計製造の自信と誇りの象徴となっている。

 

定価はレギュラーモデルがそれぞれ605,000円。55本限定モデルが825,000円(いずれも税込み)。2021年8月から発売予定とのことです。

なお、シチズンは2021年ザシチのCal.0200とともに、「シリーズ8」を新生「Series 8」として、自社製機械式ムーブメントとともにローンチしました。機械式時計市場に打って出るシチズンの、今後の未来もまた楽しみになる新作発表だったのではないでしょうか。

2021年新作⑤ブライトリング ヘリテージ プレミエ B15 デュオグラフ

ブライトリング 2021年新作 ヘリテージ プレミエ B15 デュオグラフ

出典:https://www.breitling.com/jp-ja/watches/premier/premier-b15-duograph-42/AB1510171C1/

スペック

外装

型番: AB1510171C1P1 / RB1510251B1P1
ケースサイズ: 直径42mm×厚さ15.35mm
素材: ステンレススティール / 18Kレッドゴールド
文字盤: ブルー / ブラック

ムーブメント

ムーブメント: Cal.B15
駆動方式: 自動巻き
パワーリザーブ: 約70時間

機能

防水: 100m
国内定価: 116万6000円 / 298万1000円(いずれも税込)

ブライトリングは2017年に経営陣が変わって以降、意欲的に既存コレクションの刷新に舵を切っています。プレミエも、そんな新生ブライトリングが生み出した名作のうちの一つです。

「生み出した」とは言え、この上品なクロノグラフの範は、1943年の同名コレクションに遡ることができます。

1940年代当時は軍用時計製造に専念するメーカーは少なくなく、ブライトリングもまたそこに名を連ねていました。一方で時の同社トップであったウィリー・ブライトリング氏は、同時にエレガントスタイルの腕時計ニーズをも見出していました。

そこで「洞察力の富んだスタイリッシュな顧客」らに向けたコレクションとして、プレミエが誕生します。ちなみにこの名前は、フランス語で「最初」を意味しています。

 

そんなエレガンス・クロノグラフとして2018年にリバイバルを果たしたプレミエは、従来無骨なイメージの強かったブライトリングの中で異彩を放ちました。しかしながらウィリー・ブライトリング氏が敏感にニーズを察知していたようにハンサムな顔立ちが現代の時計愛好家たちに受け、瞬く間に人気コレクションとして君臨していきます。

 

ブライトリング 2021年新作 ヘリテージ プレミエ B15 デュオグラフ

出典:https://www.breitling.com/jp-ja/watches/premier/premier-b15-duograph-42/AB1510171C1/

そしてリバイバルから3年が経ち、よりいっそうコレクションの拡充が行われることとなりました。

ピスタチオカラーが洒脱なB09搭載プレミエ,あるいはコンプリケーションとなる「ダトラ」「トゥールビヨン」等、いくつかの―そして目移りしてしまう―新作が同時リリースされましたが、10傑に加えたのは「デュオグラフ」です!

古き良き時代のツーカウンタークロノグラフに、2本のクロノグラフ針が搭載されていることに、まず目を奪われるのではないでしょうか。

これは、1940年代一世を風靡した、「ラトラパンテ」または「スプリットセコンド・クロノグラフ」「ダブルクロノグラフ」などと呼ばれる機構です。ちなみにラトラパンテは仏語で「追いかける」を意味します。そしてデュオグラフは、1940年代にブライトリングが用いていた同機構の名称となります。

ブライトリング 2021年新作 デュオグラフ

出典:https://www.breitling.com/jp-ja/watches/premier/premier-b15-duograph-42/AB1510171C1/

クロノグラフ自体がコンプリケーションに分類されますが、さらにそれを上回る複雑機。どういった機構かと言うと、ラップタイム計測が可能なクロノグラフ、というもの。通常、クロノグラフは一本の針によってストップウォッチのような役割を果たしますね。しかしながらラトラパンテでは片方の針でメインの時間計測を、そしてラトラパンテ針によってラップタイム計測ができる、という優れもの。

一方で複数の針(時分針含む)を一つのムーブメントで制御しなくてはならないこと。加えてリューズ・プッシャーで操作をまかなわなくてはならないことから、製造難易度は高くなります。

しかしながらブライトリングでは2017年、この高度なラトラパンテ・ムーブメントの自社開発に成功します。さすが、クロノグラフ開発に先鞭をつけてきた歴史を持つ名門ですね!

2017年にリリースしたB03をベースに、今回さらに機構を簡略化したB15の開発に至りました。なお、B15の製造に際し、新たな特許技術が二つ組み込まれているとのこと。精度面でブラッシュアップされたことはもちろん、クロノグラフ稼働時のパーツの摩耗が極力抑えられた設計となりました。

 

ちなみにベースのB03は、ブライトリング屈指の傑作機B01が根幹にあるため、パワーリザーブ約70時間と実用性に優れるのも嬉しいところ。100m防水の堅牢性と併せて、デイリーユースでお使い頂けるラトラパンテです。コンプリケーションは実用面が若干弱いことがありますが、そこは時計製造に定評のあるブライトリングですね。

 

プレミエは当店でもナビタイマーやクロノタイムに肉薄するような人気を年々高めていっています。

2021年新作によって拡張されたコレクションは、またプレミエ人気を押し上げていってくれることでしょう。

2021年新作⑥ブラックベイ クロノ 79360N

チューダー ブラックベイ 2021年新作

出典:https://www.facebook.com/tudorwatch/

スペック

外装

型番: 79360N
ケースサイズ: 直径41mm
素材: ステンレススティール
文字盤: パンダ

ムーブメント

ムーブメント: Cal.MT5813
駆動方式: 自動巻き
パワーリザーブ: 約70時間

機能

防水: 200m
定価: ストラップ:530,200円/金属ブレス:564,300円(いずれも税込み)

次にご紹介するのは、冒頭でご紹介したロレックスの兄弟ブランドにあたるチューダー(チュードル)です。

兄弟分とは言え、ロレックスとは異なる路線を歩み続けるチューダーは、ブラックベイを中心に各国でファンを増やし続けてきました。2018年には本邦初となる正規店が進出し、わが国での知名度・人気も年々高くなるばかりです。

そんなチューダーが生まれたのは1926年。長い歴史の中で様々な名作が輩出されましたが、そのうちの一つがクロノグラフモデルでした。デイトナをリスペクトしたクロノタイムは、あまりにも有名ですね。

そのクロノタイムの前身にあたる手巻きクロノグラフモデルが、1971年に生み出されています。つまり、今年はチューダー クロノグラフ50周年

その節目の年に、ブラックベイシリーズに流行りのパンダダイアル(または逆パンダダイアル)がリリースされたのです!

 

チューダー ブラックベイ 2021年新作

出典:https://www.facebook.com/tudorwatch/

パンダダイアルと言うのは、クロノグラフのインダイアルとベースのダイアルカラーを対照的な色合いとし、まるで動物のパンダのような顔立ちとしたデザインを指します。デイトナの116500LNの白文字盤や、オーデマピゲ ロイヤルオーク クロノグラフの一部モデル等、非常に人気の高い仕様となります。

チューダーでは往年のクロノタイムでは同様のデザインが見られましたが、ブラックベイで今回のようなオフホワイト×ブラックまたはブラック×シルバーのようなカラーリングは、あまり採用されてきませんでした。しかしながらブラックベイの男らしい外装に、パンダ顔が合わないはずがありませんね!

また、チューダーらしいイカ針(海外ではスノーフレーク針)を搭載していることも、独創性を獲得していると言えるでしょう。

 

チューダー ブラックベイ 2021年新作

出典:https://www.tudorwatch.com/ja

搭載するムーブメントは自社開発のMT5813。前項でご紹介したブライトリングのB01がベースとなっており、精度やパワーリザーブといった面で非常に優れた名機です。

メタルブレスレット・ファブリックストラップ・台座のついたレザーストラップの計6モデルがリリースされましたが、いずれも内外ともに傑出した2021年新作として仕上がりました。

 

なお、チューダーの2021年新作は、既に国内デリバリーが始まっているようです。

案の定と言うべきか、こちらのブラックベイ クロノの人気ぶりは凄まじく、ブティックではすぐに完売したとのこと…

ロレックスとは異なる路線を歩みつつも、その注目度の高さはロレックスと遜色なし!次のデリバリーが何よりも楽しみなブランドの一つです。

2021年新作⑦パネライ ルミノールマリーナ eSteel

パネライ 2021年新作

出典:https://www.panerai.com/jp/ja/panerai-luminor-watchesandwonders-2021.html

スペック

外装

型番: PAM01157 / PAM01356 / PAM01358
ケースサイズ: 直径44mm×厚さ15.45mm
素材: eSteel
文字盤: eSteel

ムーブメント

ムーブメント: P.9010
駆動方式: 自動巻き
パワーリザーブ: 約72時間

機能

防水: 300m
定価: 1,056,000円(税込)

サスティナビリティという用語をご存知でしょうか。

わが国では「持続可能性」と訳されており、簡単に言うと地球の資源や生息する動植物をただ消費するのではなく、継続して共存するような社会システム・プロセスを構築する、といった考え方です。

昨今、サスティナビリティは企業の社会的責任と捉えられており、パネライは意欲的にこの課題に取り組んでいる時計ブランドの一つです。

2021年、パネライはサスティナビリティの一つの答えとして、eSteel素材を用いた新作を発表しました。

このeSteel、なんと「リサイクルスティール合金」とのこと!

パネライ 2021年新作

出典:https://www.panerai.com/jp/ja/panerai-luminor-watchesandwonders-2021.html

確かに貴金属の再利用は、早くから着目されていたサスティナビリティ活動の一環です。貴金属は鋳つぶせばその素材だけを取り出し、また別の製品として生まれ変わらせることが可能であるためです。ジュエリーブランドHAM(ハム)が中心となった「リファインメタル・プロジェクト」では、スマートフォンやパソコンなどの触媒として使われた貴金属を取り出し(都市鉱山、等といった呼び方をする)、ジュエリーへと再利用する取り組みが行われています。

しかしながらメジャーな時計ブランドが、新作としてメタルの再利用を打ち出すというのはなかなかありませんでしたね。

しかも、時計の総重量の58.4%を、再生素材ベースで構成することとなりました。

パネライ 2021年新作

出典:https://www.panerai.com/jp/ja/panerai-luminor-watchesandwonders-2021.html

「リサイクル素材」とは言え、ルミノール マリーナらしい高級感は健在なのが、これまたパネライの凄いところ。

ベゼルはポリッシュ仕上げ,またその他の部分は丁寧なサテン仕上げが施されました。もちろん300m防水が堅持されており、耐久性は十二分です。ちなみにストラップはPETのリサイクル素材,そしてピンバックルや付属の化粧箱にもリサイクル素材が用いられているのだから驚きですね。

また、パネライのお家芸でもあるサンドイッチ文字盤にも、eSteel素材が用いられました。

グレー・グリーン・ブルーの三色がラインナップされていますが、12時位置から6時位置にかけてグラデーションしており、心を奪われる美しさを醸し出します。

※サンドイッチ文字盤…文字盤を二層構造とした仕様。夜光を塗布したボトムの文字盤の上に、バーインデックスやアラビア数字をくり抜いた文字盤を重ね合わせる。
目的は夜光を何度でも塗り直せるようにするためだが、二層構造によって立体感が醸し出され、「クラス感が増す」としてパネリスティが愛したパネライ仕様の一つとなった。なお、2015年頃からサンドイッチ文字盤が現行から消えたが、近年サブマリーナを中心に復活している

 

搭載するムーブメントはルミノール マリーナの基幹機にあたる自社製P.9010。高い精度と耐久性を維持しており、かつ72時間のロングパワーリザーブを誇ります。

パネライ 2021年新作

出典:https://www.panerai.com/jp/ja/panerai-luminor-watchesandwonders-2021.html

ちなみにパネライはサブマーシブルで、同じくeSteel素材を用いた新作をリリースしています。さらにこのサブマーシブルはムーブメントにも再生合金が用いられました。残念ながらわずか30本生産,かつ市販は2022年からとのことで、今回10傑に加えたのはルミノール マリーナ eSteelのみ。

もっとも、パネライは今後サスティナビリティにさらに意欲的に取り組んでいくことが予見できる新作の数々。パネライへの期待もいや増す、2021年新作でした。

2021年新作⑧ブルガリ オクトフィニッシモ パーペチュアル カレンダー

ブルガリ 2021年新作 オクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダー

出典:https://www.facebook.com/Bulgari/photos

スペック

外装

型番: Ref. 103200 / Ref. 103463
ケースサイズ: 直径40.0mm×厚さ5.8mm
素材: チタン / プラチナ
文字盤: グレー / ブルー 

ムーブメント

ムーブメント: Cal.BVL 305
駆動方式: 自動巻き
パワーリザーブ: 約60時間

機能

防水: 30m
定価: 683万1000円 /1025万2000円 (いずれも税込)

ジュエラーであるブルガリの、近年の意欲作。それは、オクトシリーズです。

先にご紹介したパテックフィリップのノーチラスや、オーデマピゲ ロイヤルオークのデザイナーで知られるジェラルド・ジェンタ氏によって生み出された時計の一つで、優美な八角形(オクタゴン)フォルムで構成されていることが何よりの特徴です。また、このフォルムから「オクト」と名付けられました。

オクトは切削を繰り返す、といった工法が採られているため、立体感ある仕上がりになっていることもまた魅力の一つです。

 

そんなオクトの中でも、「フィニッシモ(イタリア語で極上の、最高級の)」はジュエラーとしての高い審美性のみならず、時計メーカーとして熟成した製造技術をブルガリが有していることを、強調しているシリーズです。

とりわけ超薄型ムーブメント搭載機としてのアイデンティティは、ブルガリの技術力を見せつけるには十二分でした。

ブルガリ2021年新作 オクト パーペチュアルカレンダー

出典:https://www.facebook.com/Bulgari/photos

2014年、次いで2017年には世界最薄トゥールビヨンとなるオクト フィニッシモ トゥールビヨンをリリース。また、ミニッツリピーターやGMT,クロノグラフといった複雑機構においても、超薄型ムーブメントに追い込みをかけてきました。

そんなブルガリ、2021年、ついに世界最薄パーペチュアルカレンダー(永久カレンダー)を打ち立ててきたのです!ちなみに世界記録樹立、7年連続とのこと!!

ブルガリ 2021年新作 オクト フィニッシモ パーペチュアル カレンダー

出典:https://monochrome-watches.com/bulgari-octo-finissimo-automatic-satin-polished-steel-review-price/

完成されたケースは直径40.0mm×厚さ5.8mmに収まります。搭載されるムーブメントCal.BVL 305の厚さは僅か2.75mmとなっており、またしても「世界最薄記録」を塗り替えることとなりました。

 

ちなみにパーペチュアルカレンダーとは、大の月・小の月はもちろん、閏月を含めて時計が動いている限り、手動調整を必要としない機構を指します。言うは易し行うは難し、と申しますが、この機構は「世界三大複雑機構」に数え上げられており、きわめて緻密な設計,高度な時計製造技術が必須。そのためパテックフィリップやオーデマピゲ,IWCといった名門中の名門にのみ製造可能な機構と言っても、過言ではありません。

今回開発されたCal.BVL 305も、パーツ数は408個!なお、2100年2月まで、手動調整が必要ないようカレンダー設計がなされました。

パーツを極限まで小型化し、かつマイクロローターを用いることで薄型化が図られていますが、それでも並大抵の技術力では成しえない業でしょう。ちなみにこれだけ薄いにもかかわらず、約60時間のパワーリザーブを実現しているのも特筆すべき点です。

日付・曜日・月の他、うるう年インジケーターが端正にレイアウトされた様はさすが世界屈指のジュエラーの仕事ですね!

 

ラインナップはチタンケースと同シリーズ初となるプラチナケースの二種。価格は前者が683万1000円、後者が1025万2000円となります。

ブルガリは由緒正しいハイメゾンであること。加えて超薄型コンプリケーションということも相まってなかなか気軽に購入できる新作ではありませんが、一度実機を見て、装着してみたいですね!きっと、新しい世界が見えてくることでしょう。

2021年新作⑨ジャガールクルト レベルソ トリビュート ノナンティエム

ジャガールクルト 2021年新作 レベルソ

出典:https://www.jaeger-lecoultre.com/jp/jp/home-page.html

スペック

外装

型番: 711252J
ケースサイズ: 縦49.4mm×横29.9mm×厚さ11.72mm
素材: ピンクゴールド
文字盤: シルバー

ムーブメント

ムーブメント: Cal.826
駆動方式: 手巻き
パワーリザーブ: 約42時間

機能

防水: 3気圧
定価: 462万円(税込)

レベルソ90周年にあたる2021年、ジャガールクルトは特別モデルをリリースしました。

そのうちの一つが、こちらのレベルソ トリビュート ノナンティエムです。ちなみにノナンティエムとは仏語で90を意味します。

レベルソの何よりのアイデンティティと言えば、くるっと反転するケース。これは1931年、ポロに興じる紳士らのために、競技中風防割れを防ぐよう与えられたギミックとなります。

2021年新作レベルソ トリビュート ノナンティエムでは、通常文字盤にはビッグサイズデイトとムーンフェイズが。そしてくるっと反転させると、だるま型にくりぬかれた窓より、なんとも美しい景色が垣間見えることとなりました。

ジャガールクルト 2021年新作 レベルソ

出典:https://www.jaeger-lecoultre.com/jp/jp/home-page.html

この裏面側は、レベルソ初となるデジタルセミジャンピングアワーです。

※ジャンピングアワー…センターに取り付けられた針ではなく、小窓で時刻表示を行う機構のこと。小窓の数字が1時間ごとにジャンプするように切り替わることから、こう呼ばれる。当該新作だと、右側に設けられたインダイアルのブルー小窓で時刻を、インダイアル及びその外周の矢印で分を視認できる仕掛け。

 

また、ジャンピングアワーの小窓の下にはデイ&ナイト,さらにその下にはミニッツディスクがセッティングされました。

デイ&ナイト表示のための夜空の美しさはもちろん、太陽・月ともに浮かぶ様が大変美しい仕様ですね。

ジャガールクルト 2021年新作 レベルソ

出典:https://www.jaeger-lecoultre.com/jp/jp/home-page.html

この機構を実現するために搭載されたムーブメントCal.826は、新開発となります。

二面の複雑機構を持つにもかかわらず、縦49.4mm×横29.9mm、厚さ11.72mmのケース収められており、薄型ムーブメント開発を得意とするジャガールクルトならではの逸品ですね。

定価は462万円、世界限定190本とのことで、これまたなかなか市場に流れてこないモデルかもしれません。しかしながら90周年を彩るにふさわしい傑作となっており、いずれ手にしてみたい逸品です。

2021年新作⑩グランドセイコー Cal.9SA5 「白樺」 SLGH005

グランドセイコー 2021年新作 SLGH005

出典:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/special/whitebirch/slgh005/

スペック

外装

型番: SLGH005
ケースサイズ: 直径40mm×厚さ11.7mm
素材: ステンレススティール
文字盤: 白樺

ムーブメント

ムーブメント: 9SA5
駆動方式: 自動巻き
パワーリザーブ: 約80時間

機能

防水: 10気圧
定価: 1,045,000 円(税込)

最後に「2021年新作時計10傑」としてご紹介するのは、グランドセイコーです!

2020年には60周年を迎えた同ブランド。「眠れる獅子」などと言われてきたこともありましたが、近年の急成長は目覚ましく、2017年には母体のセイコーから独立。高級化路線や海外展開といったブランディングが功を奏した結果、幅広い世代から高い人気を誇るブランドとして名を馳せています。

もっとも、昔ながらの品質の高さは健在です。

クロノメーターをはるかに凌ぐ独自規格のもと、徹底的に追い込まれた高精度。また1960年代から続くこだわりの外装仕上げ,デザイン文法…グランドセイコーの近年の成長はブランディングが巧みであったのみならず、もともと世界に誇る製品群を強みとして持っていたからに他なりませんね。

 

そんなグランドセイコー2021年新作、今回の10傑にどれを並べようか迷いましたが、やはりこちらの「白樺」は外せないように思いました。

グランドセイコー 2021年新作 SLGH005

出典:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/special/whitebirch/slgh005/

独特の文字盤に、まず目を奪われるのではないでしょうか。

これはグランドセイコースタジオが位置する岩手県雫石町に群生する、日本屈指の白樺林を表現したとのこと。

※グランドセイコースタジオ…2020年7月に落成した高級時計専用工房。主にグランドセイコーで用いられる機械式時計の製造を主としている。

 

白樺の樹皮をイメージしたシルバー文字盤,そしてグランドセイコーならではのビシっとファセットカットされたインデックス,太く長い針が高級時計としての風格を思う存分発揮しています。

ちなみにこういったグランドセイコーならではの高級仕上げ・意匠はしばしばセイコースタイルと称されますが、これに加えて新作SLGH005では、「Series9」を基にしたグランドセイコースタイルが踏襲されている、とのこと。

Series9はセイコースタイルを正統進化させたものとなり、「光と影の間」という日本特有のデザイン美学が基調となりました。

具体的には、視認性や装着性の進化を鑑みつつも、「美しく光りを流す造形」にこだわりを見せている、とのこと。ベゼルやケース,ブレスレットにはあえてツヤ消し仕上げを施した箇所も多く、鏡面との対比がよりいっそう輝きを際立たせます。

グランドセイコー 2021年新作 SLGH005

出典:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/special/whitebirch/slgh005/

なお、内部機構にも言及しなくてはなりません。

これは、昨年グランドセイコー60周年を記念してリリースされた次世代機Cal.9SA5です。昨年は限定生産に留まりましたが、ついにレギュラー陣に搭載されることとなりました!

 

9Sムーブメントと言えば、グランドセイコーが誇るハイビート・メカニカルムーブメントです。

この「ハイビート」はテンプの振動数を指し、振動が多ければ多いほど高精度を叩き出しますが、パーツ摩耗が早かったり、パワーリザーブが短くなりがち。確かに従来の9S系は、パワーリザーブ約55時間に留まっていました。

しかしながらグランドセイコーでは「デュアルインパルス脱進機」と「ツインバレル」によって、なんと約80時間のロングパワーリザーブを実現したのです。

※デュアルインパルス脱進機…独自のエネルギー伝達構造。ガンギ車からテンプへの動力伝達に「直接衝撃」「間接衝撃」を組み合わせているとのことで、歯車が摩擦を受ける箇所が一方向どちらかにのみ発生し、摩擦によるエネルギー消費を受けず、スムーズな伝達効率を獲得したもの。
なお、テンプもフリースプラング&独自の巻き上げひげにより、安定した精度維持が可能に。

※ツインバレル…ゼンマイを収める香箱を二つ持つ仕様のこと。十分なゼンマイを確保することができる

 

一方これらの機構を搭載することでムーブメントに厚みが出るかと思われがちですが、グランドセイコーはMEMS技術によって微細な高精度パーツの量産に成功しています。そのためケース厚はわずか11.7mmと、グランドセイコーの「ビジネススーツにしっくり収まる」といった美学を崩しません。

このムーブメントは、前述した岩手県雫石のグランドセイコースタジオで製造されています。

グランドセイコー 2021年新作 SLGH005

出典:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/special/whitebirch/slgh005/

なお、100m防水,4,800A/mの耐磁性能といった優れた実用性を備えるところも、さすが「実用時計の最高峰」「最高の普通」と名高いグランドセイコーですね。

定価は1,045,000円。既に販売が開始されており、ご購入された方も多いようです。

当店でも今後、入荷を頑張っていきたいと思います!

まとめ

Watches & Wonders,あるいは独自見本市で発表された2021年新作のうち、特筆すべき10選をご紹介いたしました!

とは言え各社魅力的な新作を発表しており、なかなか10選に収めるのが難しかったのが正直なところ。また、じょじょに実機が市場に流れてきて手に取ると、また評価も変わってくるかもしれませんね。

新作の中で「欲しいモデル」「憧れのモデル」を思い浮かべつつ、入荷が待ち遠しくなる今日この頃です。

当記事の監修者

田中拓郎(たなか たくろう)

高級時計専門店GINZA RASIN 取締役 兼 経営企画管理本部長
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター

当サイトの管理者。GINZA RASINのWEB、システム系全般を担当。スイスジュネーブで行われる腕時計見本市の取材なども担当している。好きなブランドはブレゲ、ランゲ&ゾーネ。時計業界歴12年

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