「自分の時計に使われているガラスの素材はなんだろう」
「腕時計のガラスにはどんな種類があるんだろう」
腕時計のガラス(風防)は「風による悪影響を防ぐ器具」として作られた部品のことを指し、文字盤を守る役割を担う重要なパーツです。
腕時計の風防に使用されているガラスについて知りたいと思っている人は多いのではないでしょうか。
高級時計に使われるガラスには「サファイヤクリスタルガラス・ミネラルガラス・プラスチック風防」の3種類が存在します。
この記事では高級時計に使われるミネラルガラス(風防)の種類を紹介します。
風防の交換について料金の目安も紹介していますので、高級腕時計に興味がある人はぜひ参考にしてください。
目次
①高級時計の主流!サファイアクリスタルガラス
サファイアクリスタルガラスは高級時計に最も多く採用されているガラスです。
このガラスは天然宝石のサファイヤと同等の硬度をもち、傷が付きにくいという特徴をもちます。
サファイアクリスタルはサファイアクリスタルを人工的に加工したものですが、宝石の硬さを1~10の尺度に分けるモース硬度において最高クラスの「9」評価を受けている素材です。
少しこすった程度では傷つくことはなく、建築工具のような固い金属でこすったとしても傷がつきません。
いつまでも購入時の輝きを保てることから非常に高い人気を誇るガラスです。
ただ、優れた性質を持つがゆえ、サファイアクリスタルガラスを採用することは非常にコストがかかります。
そのため、時計のガラスとしては理想的な素材でありながらも採用されているのは高級時計が大半です。
割れる時は派手に割れるのが欠点
高級感がありキズも傷つきにくいサファイアクリスタルですが、割れる時は派手に割れてしまうのが欠点です。
一般的に物質は固くなれば固くなるほど、割れる時はパキッと割れます。
サファイアクリスタルも例外ではなく、コンクリートに打ち付けるといった強い衝撃を与えた場合、派手に割れる危険性を秘めています。
完全無欠のガラスではないということは頭に入れておいてください。
②一般的な時計に使われているミネラルガラス
驚異的な硬度を誇るサファイアクリスタルガラスに対し、ミネラルガラスは一般的なガラスの事を指します。
クリスタルガラスとも呼ばれますが、こちらはミネラルガラスに特殊処理を施したガラスです。
ミネラルガラスはサファイアクリスタルほどの硬度はなく、モース硬度の評価は高くても「6」、少ないもので「3」程度しかありません。
そのため、割れやすく欠けやすいといった欠点があります。
しかし、低コスト且つ加工がしやすい素材であることから、世に出回る多くの腕時計に採用されている材質です。
出典:https://www.facebook.com/skagenJP/
ミネラルガラスは主にカジュアルウォッチに使われており、高級時計に使用されることは殆どありません。
概ね5万円以下の時計にミネラルガラスが採用されていることが多いので、キズや衝撃に強いサファイアクリスタルガラスの時計を検討している方は、購入する際に風防の種類をよくご確認することをオススメします。
③アンティークウォッチの象徴!プラスチック風防
プラスチック風防はその名の通り「プラスチック素材」で作られた風防(ガラス)のことです。アクリルガラスやプレキシガラスと呼ばれることもあります。
3つの素材の中では最も軽い素材であり、加工しやすいことが最大の特徴です。
1960~70年頃のロレックス GMTマスター
プラスチック風防は、まだサファイアクリスタルやミネラルガラスが普及する前に使われていた風防であり、主に1940年代~60年代ごろの腕時計に多く使われました。
現在でもレトロなデザインを意識したモデルに採用されていますが、基本的にはアンティークウォッチの特徴として知られています。
ドーム型形状になっている
腕時計に使われているプラスチック風防は「ドーム型」の形状をしていることが非常に多いです。
フラット形状が基本であるサファイアクリスタルガラスとは真逆の性質をもち、アンティークウォッチの象徴といえるデザインとなっています。
ドーム型の形状をしている理由は「強度」を上げるためです。ガラス素材とは異なり、プラスチック風防は衝撃に弱く、割れやすいという性質を持ちます。そのため、形状にカーブをつけることで割れやすさを軽減しています。
しかし、風防が盛り上がっている分、知らぬ間に擦り傷がついていることも多く、キズ付きやすい素材であるともいえます。
細かなキズや時計の経年変化を個性として楽しめる方に向いている素材といえるでしょう。
またプラスチック風防は、傷がついても磨いて落とせるという特徴があります。これはサファイヤクリスタルやミネラルガラスではできないことです。時計修理工房に出せば、風防を交換することなく綺麗な状態に戻すことができるので非常に使い勝手が良いです。
ちなみにサファイヤクリスタルやミネラルガラスは傷を落としたい場合はガラス交換となり高額な費用が発生します。交換費用はブランドやモデルによって異なりますが、3万円~となります。
④風防の加工について
風防の「素材」はサファイアクリスタル・ミネラルガラス・プラスチック風防の3種類ですが、これらを加工した風防も存在します。
ここでは主にサファイアクリスタルの加工例を紹介します。
無反射コーティングガラス
サファイアクリスタルを採用している高級時計の一部に施されている「光の反射を抑えるコーティング」です。視認性を高める為に施されており、パイロットウォッチやダイバーズウォッチによく採用されています。
このコーティングは、サファイヤクリスタルガラスの両面もしくは裏面に施されており、コーティングされたガラスは光の反射を防ぐ効果があります。
尚、コーティングされたガラスは光を当てると薄いグリーンや青色が現れます。
ドーム型に加工したサファイアクリスタル
サファイアクリスタルガラスは非常に硬い素材ですが、その硬さ故に加工することが難しく、基本的にガラスの形はフラット(平面)です。
しかし、高級時計の中にはサファイアクリスタルを敢えてドーム型に加工した存在感のあるモデルも存在します。
ドーム型プラスチック風防のレトロなデザインは好きだけど、どうせならキズが付きにくいサファイアクリスタルガラスを選びたい。そんな要望に応えてくれるのがドーム型サファイアクリスタルガラスです。
左:311.30.42.30.01.006 右:311.30.42.30.01.005
オメガ スピードマスターにはサファイアクリスタル製のドーム型風防と、プラスチック製のドーム型風防の2種類が存在します。月に到達した当時の雰囲気を大切したい方はプラスチック風防を、機能性重視の方はサファイアガラスが選べるようになっています。
カーブしているサファイアクリスタル
フランクミュラーの各種モデルは、ケースと共にサファイアクリスタルガラスもカーブを描いた設計となっています。
ケースを湾曲させる設計自体は決して難しくはありませんが、サファイアクリスタルガラスをカーブさせるには高い技術力が必要です。
⑤風防の交換について
風防がキズついてしまうことはありますが、破損した場合は交換が必要となります。もし、風防を破損したまま放置しておくと、文字盤や針が腐食したり、さらには機械内部にまで不具合が生じる可能性があるので、早急に交換しなければなりません。
修理価格はサファイアクリスタルが最も高額になり、安価なプラスチック風防は比較的安価で修理することが可能です。
風防の交換は基本的にメーカー純正のパーツを使っての交換となります。
メーカーの正規修理か一般の修理業者のどちらかに依頼することになると思いますが、価格は正規修理の方が割高です。
メーカー正規修理 15,000円~20,000円
一般業者修理 10,000円~15,000円
一般修理業者の方が安く修理することが出来ますが、正規パーツを使わないで修理を行う業者も存在しますので、安すぎる業者には注意が必要です。
また、風防の修理は風防の交換だけでなく、時計の防水性能チェックや動作確認も含まれます。
どうしても「安く」修理したい気持ちに駆られますが、可能な限り正規修理か優良修理業者に依頼するのをオススメします。
もちろん破損しないように時計を大切に扱いことが一番重要です。
まとめ
サファイアクリスタル・ミネラルガラス・プラスチック風防。腕時計に使われる3種類のガラスにはそれぞれ異なる特徴が存在します。
耐久性においてはサファイアクリスタルガラスが魅力的ですが、プラスチック風防のレトロな雰囲気も捨てがたいです。
デザイン性や機能性で時計を選ぶのと同じように、風防で時計を選ぶのも面白いかもしれませんね。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年