正確で取り扱いも容易なクォーツ式腕時計。価格帯の幅が広いため、初めて腕時計をご購入になる方にとっても、既に腕時計を何本か所有されている方にとっても、良い選択肢になることでしょう。
そんなクォーツ式腕時計ですが、「取り扱いが容易」とは言え、誤った使い方によって思わぬトラブルに発展するものです。
せっかくお気に入りの腕時計、末永く大切に使いたいですよね。
そこでこの記事では、クォーツ式腕時計によくあるトラブルと、その原因。そしてクォーツ式腕時計を長く使って頂くために知っておきたいことをご紹介いたします!
現在クォーツ式腕時計を愛用している方のみならず、これから購入をご検討されている方も、参考にしてみて下さいね。
目次
クォーツ式腕時計によくあるトラブルとその原因
まず最初に、クォーツ式腕時計によくあるトラブルとその原因についてご紹介いたします。
原因を知って、予期せぬ修理を未然に防ぎましょう!
トラブル①磁気帯びによって時間が狂う
クォーツ式時計の精度は、月差±20秒程度と言われています。さらにはグランドセイコーやザ・シチズンのように、年差±10秒のきわめて高い精度を誇るモデルも存在しますね。機械式時計の日差が一般的に-10秒~+20秒程度であることを鑑みれば、クォーツ式腕時計は正確性において高いアドヴァンテージを有することがわかります。
しかしながらこのクォーツ式腕時計の時刻がズレるとしたら、それは不具合のサインです。
※ただし、「時刻合わせをしたままリューズを押し込んでいなかった」ために、時間が止まってしまう・針が動いてしまったといったトラブルは意外と多いものです。リューズを開放したまま放置することは、内部に異物や水が浸入してしまうことにも繋がりかねません。
時刻合わせを行った後はリューズを忘れずに押し込みましょう!特にねじ込み式だと忘れがちなので、要注意です!
このトラブルが起きた際、まず疑いたいのが電池残量が少ないのではないか、ということ。
この場合は電池交換を行えば解決します。電池交換の費用はモデルにもよりますが、民間修理業者であれば数千円で収まることが多いでしょう。
しかしながら電池交換をしても時間にズレが生じる、あるいは電池交換したばかりといった場合。もう一つのよくある原因として磁気帯びも挙げられます。
磁気帯びとは、強い磁気に腕時計を近づけることで、内部パーツが磁化してしまう現象です。スマートフォンのスピーカーやバッグのマグネット等、私たちの身の回りには磁気が溢れかえっています。そのため、近年では耐磁性能を有した腕時計開発が、各社では盛んになってきました。
デジタル式腕時計であれば、磁気の影響がないことがほとんどです。
一方でアナログ式腕時計は、磁気帯びの脅威にさらされやすいと言えます。これは、機械式・クォーツ式ともに当てはまります。クォーツ式腕時計の場合、内臓するモーターが耐磁してしまうことで、針が止まったり時間が狂ったりしてしまうのです。
もっともクォーツ式腕時計の場合は磁気発生源から離せば改善することが多いです。また、修理業者や時計専門店では専用の脱磁機があり、磁気抜き自体にもそう時間はかかりません。
とは言え重症化してしまうと回路に問題が生じてしまったり、消費電流が激しくすぐに電池切れしてしまったりすることがあります。こうなってくると、オーバーホールが必要。オーバーホールの費用はモデルにもよりますが、民間修理業者で20,000円前後~となります。
後述しますが、定期的なオーバーホールはクォーツ式腕時計にも必要です。しかしながら、磁気帯びによって不要な出費が発生するのは避けたいもの。磁気発生源から5センチ以上腕時計を離すことで磁気帯びは十分避けられますので、保管や着用時に注意してみましょう!
トラブル②針の動きがおかしい
普段は1秒ごとに針が進むのに、2秒ごとや4秒ごとになった・・・
これは、電池交換のサインです!
高級機やソーラー電波腕時計を始めとする一部モデルには、電池残量が少なくなって電圧が低下した際、間隔を空けて秒針を運針させる仕様が存在します。
※通常、クォーツ式腕時計は1秒間に1回のパルス信号を電子回路に送ることで運針していますが、電池切れ前のステップ運針では、省エネのためにパルス信号を低減させ、間隔を広げて信号を伝送させるという仕組みが採られます。
モデルによってこの時の運針は2秒ステップだったり4秒ステップだったりしますが、「いつもと動きがおかしいな」と感じたら取扱説明書を覗いてみましょう。きっと電池切れの際の動きについて、言及されているはずです。
ただし、この時のステップに規則性がない場合。または逆回転などしている場合は、電子回路に異常をきたしている場合があります。さらに言うと前回の電池交換から一年と経過していないにもかかわらずこの症状が見られたら、消費電流が激しくなっていると考えられます。その際はオーバーホールや電子回路の交換が必要となり、30,000円前後~の修理費用がかかる可能性があります。
トラブル③電池交換をしたのに針が動かない
電池交換をしたばかりなのに動かない・・・
このトラブルの原因は冒頭でご紹介した磁気帯びも考えられますが、油切れの可能性もあります。
機械式時計同様、クォーツ式腕時計もアナログ式では計算された歯車の動きによって時間を刻んでいます。そのため歯車同士のスムーズな稼働のために潤滑油を用いていますが、この油は経年によって劣化するもの。新たな注油を行わなければパーツ同士が必要以上に摩耗してしまい、パーツの劣化をも加速させます。
そのためクォーツ式腕時計にもオーバーホールが必要になってくるわけです。
また、内部にホコリが入り込んでいたり、サビが原因で針が正常に稼働できないといった事例もあります。
腕時計は防水・防塵性を保つために、ケースや裏蓋、リューズ等の隙間をパッキンでふさぐ手法が一般的です。このパッキンはゴム素材。経年劣化は避けられないため、消耗品として定期的に交換されなくてはなりません。このパッキンの劣化を放っておいたために、内部に異物の侵入を許してしまい、時計の不具合を誘発するといった事例は少なくありません。信頼できる修理店であれば電池交換やオーバーホールの際にパッキン交換も提案してくれるので、やはり定期メンテナンスは欠かしたくないところですね!
トラブル④ガラス(風防)が曇る
ガラス(風防)の内側が曇っている場合、内部に水が入ってしまった可能性が高いです。
曇りがすぐに改善されるようなら問題ないことがほとんどですが、曇りが長時間続いたり、水滴がついているような場合はすぐに修理店に持ち込みましょう!
前項でも言及しているように、最近の腕時計はある程度の防水性・防塵性を有したモデルが少なくありません。しかしながらパッキンが劣化していたり、あるいは非防水のドレスウォッチである場合は要注意です。手洗いの際の水しぶきや暑い日の汗によって、内部に水入りしてしまうケースが、ままあるのです。
水入りを放置しておくと内部パーツや文字盤・針が腐食してしまい、サビや劣化を誘発します。そのため、素早い対処が必要となってくるのです。
トラブル⑤リューズの異常
機械式時計ほど操作する回数は少ないかもしれませんが、クォーツ式腕時計でもリューズのトラブルは多いものです。
まず、リューズが重い・回せない場合。
いくつかの原因が考えられますが、まずは油切れを疑いたいところです。またパーツのサビ付きやリューズ回りの異常(ゴミ詰まりやサビ・破損)も考えられますので、すぐに修理店に持ち込みましょう。
リューズを動かしても空回りする・針が動かないといった場合も、内部パーツに異常をきたしている可能性があります。一方で針が外れてしまったといった事例もあり、この場合は部分修理で済む場合もあります。
さらに知っておきたいのが、リューズが脱落してしまった時の原因です。
一般的にリューズは、巻き芯と呼ばれる細い芯と繋げて機械に差し込まれており、そう簡単には抜けません。しかしながらリューズは使用していくうちに、当然ながら摩耗や経年によって劣化していってしまうものです。巻き芯部分が腐食したり、巻き芯に組み込まれたオシドリと呼ばれるパーツが破損していたりすると、リューズが抜けやすくなり脱落に繋がります。また、リューズ先端が緩んで取れてしまうといった事例もありました。
定期的なオーバーホールによって防げる部分もありますが、衝撃や無理なリューズ操作によってこれらの不具合を誘発することも少なくありません。
ちなみにリューズが脱落した時、リューズそのものを紛失してしまうと、交換費用が発生します。メーカー修理となると、例えリューズ取り付けだけで改善するとしてもコンプリートサービスやオーバーホールとセットになることも往々にしてあり、思わぬ高額費用に驚かされたといった声も聞きます。
無駄な出費を防ぐためにも、定期的なオーバーホールと適切な取り扱いを心がけたいですね。
なお、リューズが取れたままの状態で時計を放置したり、ご自身で取れたリューズを内部に押し込むことは絶対にお勧めできません。
末永くクォーツ式腕時計を愛用するために知っておきたいこと
クォーツ式腕時計は1969年にセイコーから市販化されたことで、時計市場でのシェアを急速に伸ばしていくこととなりました。
従来の機械式腕時計に比べて大量生産が容易で、安価ながら高性能な個体が少なくなかったためです。一方で安価ゆえにプラスティック等の素材が用いられることも多く、また機械式腕時計に比べてトルク(回転力)が弱いことから細い針が採用されており、「あまり長持ちしない」などといったイメージがあったことは事実です。
しかしながら近年では、加工技術や時計製造技術の発達によって、高級クォーツ式腕時計が非常に増えてきました。高級機らしい外装と高い性能を両立する高級クォーツ式腕時計は、長く仕事や生活の相棒となってくれることでしょう。
もっとも、価格の有無にかかわらず、せっかく気に入って買った腕時計はできるだけ長く愛用したいですよね。
そこで本項では、末永くクォーツ式腕時計を愛用するために、知っておきたいメンテナンスや取り扱い方法について解説いたします!
①定期オーバーホールを欠かさない
意外と知られていないのですが、クォーツ式腕時計もアナログであれば、定期的なオーバーホールは絶対に必要です。
機械的な歯車によって稼働するアナログ式腕時計は、パーツ同士が摩耗しないように潤滑油がさされています。この油は経年によって乾いてしまったり汚れてしまったりするものです。そのため定期的にムーブメントパーツを分解洗浄し、一つひとつに新しい油をさしなおしてあげる必要があります。これがオーバーホールです。
では、いったいどの程度の間隔でオーバーホールすれば良いのでしょうか。
クォーツ式腕時計であれば、モデルにもよりますが、おおよそ7~8年に一度の定期オーバーホールが推奨されております。もっとも、きちんとした時計店や修理店であれば、電池交換のタイミングで機械点検を行い、オーバーホールが必要であれば提案してくれることが多いです。
このオーバーホールを行わずにずっと放置していると、パーツが劣化したり電流消費が激しくなって電池切れが早くなるなどの不具合に繋がります。
特に回路に影響を及ぼしてしまっては大変なので、メンテナンスは欠かさず行いたいですね。
②電池切れを放置しない
電池切れに気づいたけど、面倒臭くてずっと修理に出していない・・・
こういった事例も多いのですが、電池交換は気づいた時に対応しましょう!
切れた電池をそのまま放っておくと、電池内部の圧が上がり、電池に設けられた安全弁からガスとともに電解液が外に漏れてしまうことがあります。
この液漏れが内部パーツに与える影響は甚大です。パーツや電子回路が腐食してしまい、果ては破損させることに繋がるためです。この腐食は取り除けることもありますが、前項でもご紹介しているように、交換となったら高額修理となる可能性が高まります。
電池交換だけなら民間修理業者で数千円、納期も長くはかからないことがほとんどですので、電池切れは気づいた時に対処するようにしたいですね。
なお、ご自身で電池交換を行うことはお勧めしません。
確かに専用工具があれば可能ではありますが、慣れていない方が扱うと時計に傷がついてしまったり、手を怪我してしまったりといったリスクがあります。安易に裏蓋を空けて内部に異物が入ると別の不具合の原因にもなりますので、修理業者に依頼するようにしましょう!
③普段の生活では「磁気」「水」「衝撃」に要注意!
腕時計は精密機器です。
そのため問題ないと思っていた取り扱いが、時計にとっては大きなダメージとなることは、往々にしてあります。
その代表格が「磁気」「水」「衝撃」です。
とりわけ磁気帯びはオーナーが気づかないまま使い続けてしまう事例が少なくありません。前述の通り、スマートフォンのスピーカーやマグネット類。またエレベーターのパネルに磁気性健康器具等に腕時計を近づけないようにしましょう!5センチ以上の距離で、磁気の影響が低減できるとされています。
また、「水」も多いトラブル原因の一つです。何も非防水時計で海に潜ったとか、そういった極端な例ではありません。手洗いの水しぶきや汗、雨の日の外出でも、内部に水入りしてしまうものなのです。お持ちの腕時計の防水機能を知って、正しい取り扱いを心がけたいですね。とは言え防水時計でも、年式を経たモデルは防水性が落ちていることがあるため注意が必要です。また、高防水時計であっても、水道水やゲリラ豪雨には晒さないようにしましょう。思わぬ水圧がかかってしまっています。
さらに「衝撃」も、精密機器の大敵です。一般的に機械式時計と比べてクォーツ式時計は構造がシンプルな分、衝撃・振動に強いとされていますが、それでも精密機器であることに変わりはありません。時計を落下させたりモノに強くぶつけると大きな打ち傷となったり、文字盤のインデックス・針の脱落に繋がることもありますので、繊細さを理解した扱いを心がけたいですね。なお、高所に保管しない。保管する際は専用ケースに収納するなどすると、良いコンディションを保ちやすくなります。
④使用後にはお手入れしよう
何も腕時計に限った話ではありませんが、一日中着用していると、汗や皮脂・ホコリが付着します。
これを放置しているとサビてしまうことはもちろん、リューズ回りに汚れが溜まって固着してしまうことも。また、清潔でない状態の時計をずっと腕に着用し続けていると、金属アレルギーを誘発しかねません。
使用後の簡単なお手入れが、腕時計と長く付き合うコツです!
乾いた柔らかいクロスで拭く。溝に入り込んだゴミはつまようじや乾いた毛先のやわらかい歯ブラシで優しく掻き出してあげるといったケアを行うだけで清潔さは大きく異なります。
お手入れについては、下記の記事をご一読下さい!
Column;クォーツ式腕時計はいつまで使えるの?
「クォーツ式腕時計 寿命」などと調べると、様々な情報が出てくるのではないでしょうか。
中には「10年」「20年」といった回答が得られるかもしれません。確かにプラスティック素材をパーツに用いた低価格帯のクォーツ式腕時計だと、早い段階で使えなくなる個体も少なくありません。
しかしながら前述の通り、近年では高級クォーツ式腕時計というジャンルが確立され、機械式時計とそん色ない高い作りこみや素材のモデルも増えてきました。また、クォーツ式腕時計が開花した1970年代~1980年代の「アンティーク」と呼べるような個体が、現在でもまだ市場に流通している事実もあります。
つまり、「クォーツ式時計の寿命は10年」と断定するのは、少し早計かなと思います。
では、いったいクォーツ式腕時計はいつまで使えるのでしょうか。
この答えは、クォーツ式腕時計の「寿命」とは、そもそも何を指しているのかも議論しなくてはなりません。電子回路が故障し、交換が必要になった時なのか?それともクォーツ式腕時計のアイデンティティの一つでもある「正確性」が損なわれた時なのか?
様々な考え方があるでしょうが、機械式腕時計にしろ、クォーツ式腕時計にしろ、交換パーツが存在している。そして修理対応をしてくれるメーカーや民間工房がある限りは、使い続けていけると考えられます(よっぽどの致命的なダメージはこの限りではありませんが)。
メーカーにはパーツ保有期間があり、生産終了したモデルはこの期間が過ぎた場合に修理対応不可とするケースもありますが、高級時計メーカーは保有期間後もできるだけユーザーに寄り添ってくれるところが少なくありません(ちなみにパテックフィリップやオーデマピゲのように、永久修理を謳っているブランドもあります)。現在はサスティナブルの時代ということもあり、腕時計はそんな時代において、非常に注目されている製品です。そのため、各メーカーは今後いっそう修理体制の整備が求められるとも考えられます。
定期的なメンテナンスと適切な取り扱いで、大切な愛機を末永く使っていきたいですね。
まとめ
クォーツ式腕時計のトラブル事例や適切な取り扱いについて解説いたしました。
クォーツ式腕時計は利便性が高く、タイトなスケジュールで日々を戦う現代人にとって、必需品です。一方で正しい取り扱い方法やメンテナンスが認知されていないばかりに、思わぬ故障や高額修理に繋がってしまってはもったいないものです。
クォーツ式腕時計を末永く使っていくために、ぜひ本稿を参考にしてみて下さい!
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年