日本には様々な記念日が存在しますが、6月10日は「時の記念日」と呼ばれていることをご存知の方は非常に少ないです。
何故、6月10日が時の記念日になったのか?
今回はその由来をひも解いていきます。
目次
①6月10日が時の日になった理由
時の記念日の由来は天智天皇の時代まで遡ります。西暦でいうと600年代のことです。
時計らしい時計が存在しなかったこの時代に、天智天皇は日本で初めて水時計を設置します。
その名も「漏刻(ろうこく)」。
出典:https://museum.seiko.co.jp/knowledge/type/nature/index2.html
漏刻は西暦660年に天智天皇が作った水時計です。
「桶」に浮きの付いた矢等を置き、一定間隔で水を増やし、浮き上がる矢の位置によって時刻を知ることができます。
それまで使われていた「日時計」は昼(晴れている時)にしか使用できませんでしたが、水時計(漏刻)はどんな時でも正確に時間を知ることができるため、大変重宝されました。
そして、漏刻がはじめて時を刻んだ日こそ6月10日だったわけです。
②時の記念日が成立された日
時の記念日が制定されたのは、漏刻の誕生から時代を大きく下って1920年。東京天文台と生活改善同盟会によって、制定されました。前述した漏刻が時を刻み始めた6月10日となったわけですが、いったいなぜこのような日ができたのでしょうか。
時の記念日を制定した目的は、国民に「時間を守ること」を徹底させるためでした。
実は時間にルーズだった日本人
現在からは考えられませんが、江戸時代・明治初期の日本は時間に割とルーズな文化となっており、時間に対しての認識は甘めでした。
甘めというよりも完全にルーズであったと言ってもよいでしょう。
というのも、当時の日本は日の出と日没の間を6等分する「不定時法」が用いられ、庶民にとっては約2時間おきに鳴る鐘の音のみが時間を知るための手段でした。
かなり大雑把な時間しか知ることが出来なかったため、必然的に時間にルーズになった訳です。
ちなみに、江戸時代末期から明治初期にかけて来日したお雇い外国人らの面々は、この時間間隔の違いに大いに戸惑い、怒りを感じたとか。19世紀という時代、既に欧米では懐中時計が広く普及しており、また長らく1分単位での時間管理は当たり前であったため、さもありなんでしょう。
事実、大正に入りわが国でも近代化が進むにつれ、「諸外国に追いつくためには時間の対する認識を変えなければならない」という気持ちが芽生えたことで、大正9年に時の記念日が制定されるに至りました。
「時間をきちんと守り、欧米並みに生活の改善・合理化を図ろう」
という呼びかけが官民一体で行われ、現在にも至ったというわけです。
その後、鉄道の発達や軍隊の整備によって日本人の時間に対する感覚が分単位になり、次第に「時の記念日」の存在感は薄れていきました。
③現在の「時の記念日」に行われること
時の記念日では、電波時計に対して標準時刻電波を送信している福島県の「おおたかどや山標準電波送信所」から、40kHzの電波で、日本の標準時間を全国へ発信する取り組みが行われています。
電波時計が正確に時を刻む理由は福島県の「おおたかどや山標準電波送信所」と佐賀県の「はがね山標準電波送信所」の2カ所から全国に標準時刻電波が発信されているためですが、場所によっては電波が弱く、時間がズレやすいケースが発生します。
そんなエリアにある時計のズレを全て直すため、時の記念日に1カ所の電波所から全国を網羅するほど広範囲に及ぶ電波を発信するわけです。
天智天皇が祀られている近江神宮(滋賀県大津市)では、漏刻が初めてつかわれた6月10日を記念し、「漏刻祭」というイベントが毎年行われています。
出典:http://oumijingu.org/
祭り当日は奉納行事として女人舞楽・原笙(にょにんのぶがく・はらしょう)会による舞楽が行われます。
また、近江神社に併設されている時計館宝物館はこの日に限って入館が無料です。
さらには全国の時計店で割引サービスが行われたり、小学校では社会科見学として時計工場を見学したりと、意外にも時の記念日は全国に浸透しています。
なお、2020年は「時の記念日 100年」の節目を迎えたことで、東京の国立科学博物館ではかなり大規模な「時」展覧会が開催されました。
いずれも「時間の大切さを再認識してほしい」という思いが込められています。
まとめ
日本は時間に対する正確さは世界一といわれますが、時の記念日を制定したからこそ、これ程までに正確になったのかも知れません。
時の記念日は時間の大切さを改めて考える良い機会です。
1日24時間という誰にでも平等に与えられた時間の使い方を今一度考えてみるのも、良いかもしれませんね。
当記事の監修者
南 幸太朗(みなみ こうたろう)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン プロスタッフ
学生時代に腕時計の魅力に惹かれ、大学を卒業後にGINZA RASINへ入社。店舗での販売、仕入れの経験を経て2016年3月より銀座本店 店長へ就任。その後、銀座ナイン店 店長を兼務。現在は営業企画部 MD課 プロスタッフとして、バイヤー、プライシングを務める。得意なブランドはパテックフィリップやオーデマピゲ。時計業界歴13年。